テリー 実際、健さんにお会いすると、そのオーラにやられちゃうところがありますよね。
谷 まず、たたずまいがいいし、タッパもあってカッコいい。それにファッション誌から車の専門誌まで、本や雑誌をいろいろ読んでいるし、海外の映画のことも何でも詳しいんですよ。世間のイメージとは違って、ふだんは饒舌で、よくしゃべる方ですしね。
テリー そうなんですよね、あれには僕も驚きました。
谷 演技についても一家言ありましてね、「いいか、演技は顔でするんだから細かく手を動かしたり、小芝居するんじゃねえぞ」とか、よくアドバイスを受けました。スタニスラフスキーの演技論みたいなことも、よく話していましたね。
テリー それは、かなりのインテリですね。
谷 それに初めてジムに連れていってくれたのも、健さんなんです。「メロドラマでも、俳優は体を鍛えなきゃダメだぞ。ふっと女性を抱えて、颯爽と歩いたら絵になるだろう」「向こう(海外)の俳優は、みんな体も鍛えてるんだ」って。
テリー へぇ~。
谷 ジムに行くと、必ず健さんの背中を流して、そのあと保湿クリームを塗ってさしあげるんです。そこのお客さんは外人さんが多かったから、たまに「ユー、ホモセクシャル?」って言われたりして(笑)。でも、何と言われようが「俺はこの人が好きなんだから、どうでもいい」って思ってましたけどね。
テリー 健さんと一緒だと、なかなか自由には出歩けないでしょう。
谷 そりゃあ大変でしたよ。どこか喫茶店に入るにしても、その辺りの店にポッと入ったりしないですから。きれいな女の人がやってる喫茶店が好きなんですよ。俺らは常に、そういう店をリサーチしてましたけど。
テリー 健さん、あんまり女性の噂はありませんでしたけど、そういう話を聞くとホッとするな(笑)。撮影が終わると、よく1人でヨーロッパや石垣島に行っていたっていう話も聞きましたけど。
谷 船やスキューバの免許を取ってから、すごく沖縄が好きになったんです。そういうところに行けば、人の目にも触れないし。
テリー ああ、そういう理由もあったんですか。
谷 すごく目立つのを嫌っていました。ある時、「明日、ホテルのプールで肌を焼いてきます」って健さんに伝えたら、「お前、映画で金取れねえな」って返されてビックリしましてね。「お前の隣に寝そべってる客が“谷隼人がここで肌を焼いてたよ”なんて言って回ったらどうする。だったら自宅の屋上で日に焼くか、ハワイにでも行って焼いてこい。そういうガマンをして初めて、映画俳優で金を取れるんだから」ということだったんですね。
テリー 厳しいなァ。でも、そういう意味でも、健さんは常に「高倉健」だったですからね。
谷 はい、みごとに最後まで演じ続けました。大スターの方でプライベートは派手に遊んで、なんて人は何人も知ってますけど、健さんみたいな人は本当にいませんからね。
テリー そうですよね。僕なんかは、その辺りがちょっとかわいそうな感じもするんですけど。もっと好きに生きてほしかった‥‥でも、本人が選んだ道だからしかたないんですけどね。
谷 俺たちも憧れましたし、あんなふうに生きたいなと思いましたけど、絶対に無理。近くで見てたので、本当にそう思うんです。健さん以外、誰も「高倉健」にはなれないんですよ。