テリー もう一つ、僕が健さんに対して不満があったのは、以前、松方弘樹さんから「健さんは長ゼリフが大嫌いだった」と聞いたことがあるんですよ。共演して、健さんに長ゼリフがあると「お前、ここからここまで(代わりに)言ってくれ」って松方さん、よく言われたって。
谷 それが本当かどうかはわかりませんけど、健さんは長ゼリフで魅せる人じゃないですからね。
テリー それこそが健さんの間違いだった、と思うんですけどね。
谷 どういうことですか?
テリー 僕は「東映チャンネル」というCS放送で、健さんの映画をよく観ているんですけど、若い頃には菅原文太さんの人気作「トラック野郎」のもとになったような映画も出ているじゃないですか。
谷 ありました。よくしゃべる役で、おもしろかったですよね。
テリー そうなんですよ。でもね、実は健さんの晩年の作品、あまり好きじゃないんです。それは、観ていて健さんが自分自身を“高倉健”のイメージの中に封じ込めている感じがするからなんです。もっといろんなイメージの健さんが観たかった。
谷 テリーさんは力があるディレクターだからそう思うんでしょうけど、健さんはあまりしゃべらないほうがいいですよ。
テリー 谷さんの言ってることもわかりますよ。でも、それはあくまで“健さんが選んだキャラクター像”じゃないですか。健さんは恐らく、完成した作品を自分で想像できるものしか出演しなかったんじゃないですか。それって、すごくもったいない話ですよ。僕はハリウッドの監督に、健さんをいろんなイメージで撮ってほしかったなァ。
谷 確かに「ブラック・レイン」の時は、少しはじけていたかもね。でもきっと、現場のスタッフやファンを含めての“全員が求める高倉健”に対して責任を持ち続けた形が、あの姿だったんですよ。だからこそ、周りもすごく気を遣っていたと思います。
テリー また映画を観てると、その現場の緊張感が伝わってきちゃう。「これ、役者はNG出せないだろうな。恐らく修羅場だったんだろうな」って。健さんクラスになると、ある意味しかたがないんでしょうけど、そこだけが語られ続けるのって、ちょっともったいないですよ。
谷 テリーさんの意見はある意味、当たっているかもしれないです。俺たちが尊敬する健さんの魅力って、それだけじゃないからね。でも、誰もそれは直接本人には言えなかったですよ。
テリー それもよくわかります。だからこそ、谷さんがこれから語り部として、健さんの本当の姿を伝えていってくださいよ。カッコいいところはもちろんだけど、カッコ悪い人間臭いところも含めて。
谷 ウーン、その役目は俺には重いですよ。
テリー 健さんから受け取ってきたものを伝えていくのは、残された者の義務だと思いますよ。
谷 お金とか洋服とか、当時健さんからいろいろいただきましたけど、諸事情あって今は手元にほとんど残っていなくてね。でも、健さんの目配り、気配り、人に対する優しさ──それだけは忘れずに生きていますから。これからの俺の仕事や生き方でそういうことが伝わればいいな、とは思っていますけどね。
◆テリーからひと言
谷さんが健さんの話を始めると、誰にも止められないね。ぜひ、みんなの知らない健さんについて、もっと語ってください。谷さんは健さんの最高の弟分なんだから。