日本人は、欧米人に比べて、便秘で悩む人が多いです。昨今では、食生活の変化もあって、女性のみならず男性も便秘に苦しむ人が多く、私のもとにも多くの方が便秘の相談に訪れます。では、便秘を解消したい場合、下剤と浣腸のどちらを使うべきでしょうか。
下剤は「腸の上部」を、浣腸は「腸の下部」を刺激して動かします。便秘がどのような状況にあるかで、どちらを使うかが決まります。「3日に1回しか便が出ない」などの慢性便秘の場合は「上から押す」=下剤を服用することとなります。
下剤にはいくつか種類があります。運動不足で腸の動きが悪くなる「弛緩性便秘」の場合は、腸内の水分吸収を防ぎ便に含まれる水分を増やす「塩類下剤」で便を軟らかくします。うさぎの糞のように固まった便を、水で軟らかくするのがこのタイプで、食後に服用すると2~3時間で効きます。
便ではなく腸の壁を刺激する「刺激性下剤」は、腸の動きを活性化させて排便を促します。こちらは8時間ほどで効きますので、就寝時に服用すると翌朝のお通じがよくなります。コーラックやタケダ漢方便秘薬などはこのタイプです。
「3日間出ていない」などの慢性便秘では、それらの2種類の下剤を使い分けます。
これに対し「バリウムや風邪薬を飲んで便秘になった」「旅行に出かけたら出が悪くなった」などの急性便秘の場合、下剤を飲むと激痛を生じる危険性があります。肛門が固まっているので、上から押し出すのではなく、下から便通を和らげる必要があります。また、肛門の手前の直腸に便がたまっている直腸性便秘も、浣腸をして硬くなった便を出すようにします。
「1週間、便が出ていない」などのひどい慢性便秘も、肛門が固まっている可能性があるため、下剤や便秘薬を服用すると腸閉塞のような症状が生じることもあるので、浣腸を使用したほうがいいでしょう。
浣腸や座薬は、下剤よりはるかに効果が早く現れます。便秘で腸の出口から20センチほど便が詰まっているとしたら、浣腸や座薬を投与して5センチほど便を軟らかくします。これを2~3度繰り返すと、腸内を詰まらせて固まった便がなくなり、一気に排便できるようになります。
つまり、慢性便秘で3日出ていない程度なら下剤、ひどい慢性便秘や急性便秘では浣腸を使うのが正解です。もっとも自分で浣腸をするのは慣れていないとやりにくく、浣腸と同じ成分の座薬のほうが使い勝手も便利なので、最近は多くの医師が座薬を用います。
便秘が長引き、さらに吐き気を催すほどひどい場合は、腸閉塞による便秘の可能性があります。腸の中に便が詰まっているため、下剤や浣腸を使うと腸内の圧力が高まって破裂し、腸に穴があく危険性があるので、専門医に診てもらうことが肝心です。
ここで私からの提案です。下剤や便秘薬を使用する方は、次のような「3日ルール」を試してください。1日出なかったら、その夜に軽い下剤や便秘薬を服用します。翌日に出なかった場合は、強い下剤や便秘薬の量を増やして便の排泄を促しましょう。
また、下剤や浣腸を使う前に、漢方薬を用いるのも一つの方法です。医学が未発達の時代に便秘対策として最も使われたのが漢方薬の処方です。多くの漢方薬成分には下痢の作用があります。特に有名なのが「防風通聖散」です。下剤や便秘薬を頻繁に使用するよりは、漢方薬をオススメします。
便秘は1週間も過ぎてしまうと対処方法が変わってくるため、3日以上はためないようにすること。それを肝に銘じてください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。