4月14日に発生した熊本地震から1カ月が経過しようとしています。今後は避難生活の長期化に伴うさまざまな健康状態の悪化が懸念されるだけに、一日も早い復興を願いたいものです。
また今回の地震で、あらためてクローズアップされたのが、住宅の倒壊によるケガや生き埋めなどの被災トラブルです。かつては、大地震の際には、テーブルや机の下に潜れと言われたものですが、その常識は過去のものと言っていいでしょう。地震における死因は家屋崩壊による圧死と呼吸困難が大半を占めていますので、住宅の倒壊による被害を未然に防ぐ最善の策は、室外への脱出です。
まず大きな揺れが起きた時点で、なるべく外に近い場所に逃げ込むことが肝心です。室内に置かれているタンスや机などのすぐ脇で、頭を抱えて身を低くした状態で揺れが収まるのを待つことで、圧死といった事態を回避できます。
仮に天井が落ちてきた場合にもタンスなどの家具が天井の重みを支える柱の役割を果たすので、何も家具などの設置物がない平面のスペースはペシャンコに潰れてしまいますが、家具の周辺はスペースが生じます。つまり、天井が落ちた時に生じる三角形のスペースを地震が起こる以前にシミュレーションしておくことで、いざという時に備えることができます。
では、ここで質問です。避難生活を送る場合、体育館などの避難場所と、車中泊では、どちらが健康リスクが高いでしょう?
今回の熊本地震では避難生活が長期化するにつれ、車中泊によるエコノミークラス症候群で健康を害したり、亡くなるケースが数多く報告されています。
一般的に、エコノミークラス症候群とは、飛行機に乗って移動する際に発生する異変で、同じ姿勢を長時間続けた結果、足の静脈の血流が悪くなり、血栓ができることでさまざまな症状を引き起こす病気を指します。これまでもマレに、タクシーなどの運転手が勤務中に発病することもあるなど、エコノミークラス症候群は、飛行機に限ったことではありません。
医学的には「深部静脈血栓症」と呼ばれますが、足のむくみや痛み、息苦しさ、胸の痛みといった症状を訴えます。車中泊生活中にこういった症状に気づいたら、まずはエコノミークラス症候群を疑うべきでしょう。
車中泊での問題点は、寝返りなど、就寝中に自由に動けないことにあります。体育館で寝ていた場合、寝返りを打てないほどの密度で人が押し込められる事態は考えにくいですから、避難所での生活のほうがリスクは低いと言えるでしょう。家族全員が雑魚寝して寝返りできない車中よりも1人でワンボックスカーで広いスペースを占有できるほうが、危険性は少ないと言えるでしょう。
またエコノミークラス症候群になりやすいタイプというのも存在しています。中高年、肥満体型、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を持つ人、血液が固まりやすい人、格闘技やサッカーなど激しいスポーツをしている人、悪性腫瘍のある人などが当てはまります。
予防法としては、長時間同じ姿勢を取らないのはもちろん、定期的に水分補給をしたり、トイレに行ったり、屈伸運動をすることで発症する危険は回避できます。血行が悪くなるので足は組まず、飛行機に乗る際はなるべく通路側の席を確保すること。また、エコノミークラス症候群になっても気づかないことがありますので、避難生活中は睡眠薬は飲まないようにしてください。いずれにせよ、気分が悪くなったら早めに医者にかかるのが肝心です。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。