今週は生活習慣病に関する話題です。5月16日に、西城秀樹さんが63歳の若さで亡くなりました。西城さんは2度の脳梗塞を患いましたが、毎年50万人もの患者が発症している恐ろしい病気です。
では、ここで質問です。脳梗塞の二大危険因子は高血圧と糖尿病ですが、どちらがより脳梗塞を起こしやすいでしょうか。
脳梗塞とは動脈硬化の結果、引き起こされる病気で、脳内の血管が硬くなり最終的には詰まってしまう脳血管障害です。原因としては高血圧と糖尿病の他にも高脂血症や高尿酸血症、飲酒や喫煙、肥満、年齢、家系による遺伝などがあります。中でも、年齢と家系以外で大きな要因となるのは喫煙と糖尿病なのです。もちろん、高血圧も要因の一つですが、血管は若い人ほど弾力があるため、20歳でたとえ血圧が200あったとしても倒れたりはしません。糖尿病の場合は傷ついた血管が動脈硬化で詰まってしまい、最終的に高血圧がトドメを刺すのです。
対して、糖尿病は糖の高さが常態化し、少しずつ体全体をむしばんでいきます。特に神経に障害を起こすケースが多く、糖尿病が原因で足がしびれたりします。これは血管の表面にも神経が通っているためで、糖尿病が血管を傷めているという説もあります。
糖尿病が要因となった失明は、目の血管が動脈硬化で切れて眼底出血を起こすためです。同じように、人工透析になるのは、腎臓の血管がダメージを受けるためであり、足が壊疽するのも足の血管の血流が悪くなるためだからです。
つまり、糖尿病の合併症は血管絡みですので、脳の血管が詰まる脳梗塞に関しては、高血圧よりも糖尿病のほうがはるかに怖いと言えます。
とはいえ、高血圧も命に関わる病気を引き起こすという点で注意が必要です。脳梗塞などの脳血管疾患に及ぼす危険性は糖尿病と変わりません。高血圧と糖尿病は互いに悪影響を与えながら動脈硬化を加速させていきます。実際、糖尿病患者のうち半数ほどが高血圧にもなっており、これは一般的な統計の2倍の確率と言われています。
糖尿病が高血圧になりやすいのは、血液の浸透圧が高くなるためです。高血糖状態になると腎臓からの水分吸収が増えて体液・血液の量が増えます。また肥満になると血管が緊張(=高血圧状態)することが多くなり、血圧を上げるホルモンが多く分泌されて高血圧となるのです。
糖尿病になるとインスリン注射をしますが、これはインスリンの血糖を下げる作用を受ける細胞の感受性が低下するため、インスリンが多量に分泌されます。この状態を高インスリン血症といい、こうなると腎臓で塩分が排泄されにくくなり、血管を広がりにくくさせて血圧が高くなります。こうした症状に陥らぬためにも、生活習慣を改めることが肝心です。特に、血管を収縮させて血圧を上げてしまうのがタバコです。喫煙者で高血圧の人は即刻禁煙をすべきです。
日頃運動をしない人は、毎日30分でいいので、歩くことから始めましょう。適度な運動の継続は血圧を下げてくれますが、いきなり激しい運動をすると、前述のように一気に上がった血圧で死に至ることもあるので要注意です。
食生活では塩分も控えめにしましょう。適量は1日9グラム未満とされています。油を使った食事も控えて、肉類よりも魚と野菜を食べるようにしてください。
これらを守り、規則正しい生活で十分に睡眠時間を取れば、糖尿病も高血圧も改善されていきます。「継続は力なり」と言われますが、健康面でも同じです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。