成人病の中でも怖い病気が糖尿病です。「ぜいたく病」などと称されていますが、今や国民病と言っても過言ではないでしょう。
糖尿病の原因は遺伝子素因と肥満に大別されます。家族に糖尿病患者がいると遺伝的に糖尿病になりやすいと証明されている一方、肥満でインスリンの分泌が悪くなるのも糖尿病の原因です。
人間の体は血液中のブドウ糖がパワーの源です。御飯やパンやイモ類に多く含まれる炭水化物が消化酵素により分解されたブドウ糖が血液中に溶け込み、全身に運ばれて脳や筋肉、内臓などを動かすエネルギーとなっています。ダイエット中に突如、全身の力が入らなくなる現象が起こるのは、血液中のブドウ糖が不足した結果、エネルギー不足となるからです。この状態を医学的には「低血糖」と呼んでいます。
通常、血糖値が高くなると、膵臓で作られるインスリン(食後血糖中に増えたブドウ糖を筋肉や肝臓などへ取り込むホルモン)の分泌により血糖をエネルギーとして取り込みますが、インスリンの分泌量が少なくなったり働きが悪くなると血液中の数値が高くなり、慢性化することで糖尿病となります。
俗説では「甘いものを食べないと糖尿病のリスクが下がる」と言われますが、医学的な根拠はあるのでしょうか。それとも、間違っているでしょうか。
1枚のせんべいと一切れのチョコレート、それぞれの糖質量を比べると、前者は約16グラムで後者は約10グラムです。米が成分であるせんべいは糖質が多く、血糖値を上昇させます。
一方、甘いものの代表的なお菓子であるチョコレートですが、インスリンの働きを高めてくれるなど、チョコレートが糖尿病に有効であるとの説もあります。糖尿病のみならず心臓病や脳卒中の予防になるとも言われており、主成分であるカカオは食物繊維も豊富で糖の吸収を妨げてくれる効果があるとされています。
ストレスも糖尿病の原因となりますが、チョコレートには精神を安定させるセロトニンの分泌を促す効果もあるので、チョコレート有害説はここにきて、かすみつつあります。
つまり、糖尿病になるのは甘いものの食べすぎではなく、糖質の多い現代人の食習慣が糖尿病を招いているのです。
御飯やパンなどの炭水化物をよく食べることに加えて、よくかまずに食べる、食べるのが早い、ふだんあまり運動をしないなどが糖尿病になりやすい生活習慣です。さらに、厚生労働省が指導しているメタボについても糖尿病予備軍となるのです。腹回りが85センチ以上、BMI(体重÷身長の二乗)25以上が当てはまる人は十分に糖尿病予備軍です。ちなみに糖尿病は脳梗塞や認知症、網膜症、歯周病、がん、狭心症、骨粗鬆症、勃起障害などさまざまな合併症を引き起こします。たかが糖尿病と軽く考えず、自分の体型と今一度向き合うことをオススメします。
糖尿病患者が覚えてほしい数値にGI値(グリセミック・インデックス)があります。この数値が高い食べ物ほど血糖値の上昇スピードが速くなり、糖尿病の大敵となります。逆に低いと体内でゆっくり吸収されるため、糖尿病のリスクを軽減する食べ物となります。
炭水化物のほか、ドライフルーツやフルーツジュース、ビールや日本酒、米菓子やスナック類、清涼飲料水などはGI値が高く、野菜でもにんじんやかぼちゃ、とうもろこしなどは避けてください。逆にキノコ類や玄米、卵、こんにゃく、豆腐、納豆、油揚げ、カニ、エビ、イカ、肉類、白菜、ネギ、なす、きゅうり、枝豆などの野菜類、焼酎、コーヒーや紅茶(砂糖なし)は、糖尿病でも安心できる食品です。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。