2014年に日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」で、高血圧の基準を改定しました。それにより、今まで以上に高血圧に関心を持つ人が増えたように思えます。先日も50代の患者さんが、日常生活での不意の動悸が不安だと相談に来ました。酒もタバコもたしなむそうで「どちらかやめようと思っています。どちらをやめるべきでしょうか?」と質問を受けました。
医師の立場からすれば、究極的にいえば、高血圧の場合、酒とタバコはどちらもお勧めできません。
お酒の場合、飲んだ直後は血管が広がって、血圧自体は下がります。いわば入浴時と同じ状態ですが、この状態が長く続くと動脈硬化が進み、結果的に高血圧につながります。
一方のタバコは、喫煙すると血管がぎゅっと収縮し、血圧が上がります。吸い終わって30分もすると血圧の数値は元に戻りますが、タバコを吸うたびに、血圧がアップダウンを繰り返します。こうした血圧の頻繁な変化は血管にとって好ましくありません。脳梗塞や心筋梗塞、脳卒中のリスクが高まります。加えて動脈硬化の危険もあるため、直接血圧を上げるタバコのほうが害も多くなります。
また、体への悪影響を考えた場合、飲酒は、1回のアルコール摂取量が1合飲んだ場合と、それが1合半に増えたとしても、大差ありませんが、タバコは喫煙している間は、血圧が上がり血管が狭くなります。つまり10年禁煙しても、1日吸っただけで脳梗塞になる人もいるほどで、喫煙自体がリスクになります。その点、お酒は10年禁酒のあとに適量であれば1日ぐらい飲んでも、すぐに病気になどなりません。
そこで、ぜひ喫煙家の読者の方に試してほしいのが、1日禁煙して、喫煙時と禁煙時の血圧差の測定です。たった1日の禁煙だけでもかなりの数値の差が出るはずです。
さらにいえば、こと血圧に関しては、タバコのタールの量は無関係です。「高血圧だからタバコを6ミリから3ミリに変えよう」というのは何の高血圧対策にもなりません。
わかりやすい例があります。タバコを1日10本で20年吸うのと、1日20本で10年吸うことを比較した場合、どちらも本数は同じです。しかし病気のリスクを考えた場合、両者の肺ガンのリスクはタールの量は一緒なので「まったく同じ」です。しかし、心臓や高血圧のリスクは「1日の本数が多い」ほうがより高くなります。
極端なケースとして、缶ピースを一日に3本吸うのと、1ミリのタバコを20本吸う場合を考えてみましょう。高血圧と心筋梗塞にだけ着目すれば、リスクは20本吸ったほうが高くなります。
つまりタバコは、心臓と肺の健康を害すことにつながり「百害あって一利なし」なのです。
一方、お酒には「人間関係を近づける」「飲んでいると楽しくなる」など、いくつかのメリットがありますが、当然ながら過度な飲酒は、動脈硬化につながります。さらに酒をたしなむ程度ならまだしも、つまみで塩辛いものを好んで食べてしまいがちで、そうした食習慣が高血圧を引き起こす場合も少なくありません。
つまり、「酒もタバコもやめなさい」というのが正解なのでしょうが、患者さんには「タバコをやめたほうがいい」と診断しました。それでもタバコを吸いたい人は葉巻にしてもいいかもしれません。
飲酒やタバコは健康あっての嗜好品だということを忘れないでください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。