もはや破れかぶれの自暴自棄か、それとも新章「貴の乱」の幕開けか。昨秋の日馬富士暴行事件以来、相撲協会との溝を深めていた貴乃花が突如、年寄を引退、事実上の廃業を宣言した。現在は平静を装うものの協会からの圧力に屈し、あえなく土俵外に押し出された平成の大横綱が、いよいよ報復の牙を剥くというのだ!
「引退は今朝、決めました」
9月25日、貴乃花(46)が急きょ開いた年寄退職会見には、およそ300人のマスコミが大挙押し寄せた。すでに、相撲界との決別の意思を固め、憑き物が落ちたかのような面持ちの貴乃花は、報道陣から矢継ぎ早に繰り出される質問に、一問一問丁寧に応じた。スポーツ紙相撲記者が語る。
「2日前の秋場所千秋楽で横綱・白鵬(33)が歴代1位となる41回目の幕内優勝を全勝で決めたばかりだったのに、集まったマスコミは前代未聞の親方退職で貴乃花が本当に相撲界から消えるのか、に関心が集中していた。にわかには信じられない雰囲気で、報道陣からは質疑だけでなく、協会との話し合いに応じ、引退を撤回してほしいと嘆願する声が上がったほど」
その意見に熱心に耳を傾けながらも、最後まで貴乃花が引退の決意を翻意することはなかった。
「会見では、『自分が育てた弟子がとにかくかわいい』『このままでは貴乃花部屋の力士は相撲を続けられない』など、みずからの処遇よりも弟子ファーストであることを繰り返し語っていた。それでも、今年3月に貴乃花が日馬富士(34)の貴ノ岩(28)への傷害事件に関して内閣府に提出した告発状を、協会が“事実無根”としたことについては、断固として受け入れられない様子だった」(スポーツ紙相撲記者)
つまり、貴ノ岩傷害事件に端を発する「貴の乱」は相撲協会の圧勝に終わったことを象徴する瞬間だったのだ。
中でも相撲協会の怒りを買ったのは今年3月9日、貴乃花が提出した前述の告発状の内容にあった。告発状の処遇については、その後、春場所で愛弟子の貴公俊(21)が付け人力士に暴行をしたことで、あえなく取り下げていた。そればかりか貴乃花は、2階級降格処分を受け入れ、今年5月場所からは審判部の“一兵卒”として協会の仕事を再開していた。だが、水面下では告発状を巡り、両者の激しいつばぜり合いが続いていたのだ。相撲ジャーナリストの中澤潔氏が説明する。
「今年7月末、協会は理事会で『全ての親方は一門のいずれかに所属する』という方針を内々で決めていた。これは今回の貴乃花引退で初めて明らかになったことです。協会の規約にはこうした取り決めはなく、協会の言うことにまったく耳を貸さない貴乃花をじわじわと痛めつけたい役員の策謀だと取られてもしかたがありません」
この動きについて、相撲部屋関係者が実態を明かす。
「この取り決めにより2月の理事候補選で敗北したことで貴乃花一門が空中分解し、無所属となった貴乃花は5つある一門のいずれかの軍門に下る必然が生じたのです。でも、事実上、貴乃花を受け入れる一門はありませんでした」
正確には“受け入れられなかった”というのが、正しい表現のようだ。
「5つある一門の全ては、相談さえしてもらえれば、話を聞く用意はできていたそうです。ただ、貴乃花が告発状の内容を事実無根と認めないかぎり、それを検討することは難しかったのです」(相撲部屋関係者)
ともあれ、協会の“悪魔のシナリオ”は、ついには空前の若貴ブームを巻き起こした相撲界の功労者をいぶり出すことになったのだ。