若い頃に比べて、衰えてくるのが「体力」です。「昔は徹夜も平気だったし、酒もたくさん飲めたのに」などと嘆くのも、40代以降の中年の本音でしょう。その一方で、人生で培ったさまざまな経験により、生き方に余裕が持てるのが中高年世代です。いい時も悪い時もある、と前向きに考えることも健康維持のコツとも言えます。
さらに言えば、中年にさしかかったら、食生活を中心に生活スタイルの改善を考えなければいけません。ここで問題です。50代と60代を比較して、ライフスタイルを見直すべき年代はどちらでしょうか。
50代と60代で大きく違うのは「職場での立ち位置」です。50代はリタイア前の「社会のリーダー」であり、金銭的にも余裕が出てきています。食に関していえば、好きなものばかり食べがちですが、アメリカの研究で「50代にタンパク質や糖分を摂取しすぎると死亡率が高まる」と報告されています。先々の健康を考えるなら、やはり50代は考えを改める時期と言えます。
社会的にバリバリの現役であるにもかかわらず、肉体的な衰えが大きくなるのも50代直前です。白髪やしわが目立ち始めるのもこの頃で、50代半ばには生殖能力を筆頭に老化が急速に進んでいきます。逆に上がっていくのが「最高血圧」ですが、50代は血管の老化も進む年代でもあります。何度も申しているとおり、動脈硬化が招くのは脳梗塞や脳出血などの大病です。
このように、体の衰えが顕著になり始める50代は、食生活はもとより、健康に対する考え方にいちばん注意すべき年代であり、人生で最も健康に向き合わないといけない時期と言えます。
食生活改善として、まずは主食を減らすことをお勧めします。エネルギーが必要だった30代の頃と同じように糖質を摂ると、高血圧や糖尿病を招きます。糖質制限(ローカーボ)をして野菜中心のメニューに切り替え、肉、魚介類、大豆製品など幅広く栄養を吸収するようにしてください。
また、血圧を少しでも下げる減塩が欠かせません。水分と塩分をコントロールする腎臓は、負担がかかるほど機能が低下して血圧を上昇させます。濃い味を好む人は、塩分の摂りすぎが悪影響を招きます。また、アルコール量に注意が必要です。血管の収縮反応を高めたり、心拍を早くする交感神経を活発にするので、量を減らすべきでしょう。言うまでもありませんが、タバコに含まれるニコチンが交感神経を刺激したり、一酸化炭素が血液中の酸素を不足させ、血管や心臓に負担をかけるので、50代という年齢を機に禁煙をするべきでしょう。
40代まで大病とは無縁だった人でも、健康を意識した生活改善をしなければ、必ず不調を来します。日々の運動なども心がけてください。
これからの時期は寒くなりますが、冬に寒い環境で暮らすよりも、暖かい部屋に住むほうが筋力も低下せず、転倒などをしにくくなります。下半身の衰えも目立つ時期なので、住環境も意識したいところです。
対して60代はリタイア後の「余生」を楽しむ時期で、ストレスも50代よりは低くなります。老いの実感も顕著になりますが、60代を迎えて大病していない人は、生き方や健康法が間違っていなかったとも言えるでしょう。
60代半ばを過ぎると、逆に高タンパク群(1日の総摂取カロリーに占めるタンパク質摂取20%以上)が、ガンになる確率や死亡率を低くします。積極的に肉を食べるなど、食生活を切り替えてください。ただし高血圧予防は重要ですので、塩分やカロリーは控えめにしてください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。