未成年者への強制わいせつ行為でジャニーズ事務所との契約を解除されたTOKIOの元メンバー山口達也さん。記者会見では酒による肝機能障害で1カ月入院しており、メンバーからも「アルコール依存症ではないか」と言われていたことが判明しました。
「退院後、つい飲んでしまった」という本人の証言などさまざまな状況から診断すると、医師としては「アルコール依存症」だと言わざるをえません。ではここで質問です。そもそもアルコール依存症は本人が依存症だと自覚できるのでしょうか。
WHO(世界保健機関)が作成したアルコール依存のチェックリストでは、過去1年間で、次の6項目のうち3項目以上に該当した場合にアルコール依存症と診断されます。
【1】「お酒を飲めない状況で強い飲酒欲求を感じたことがある」
【2】「自分の意思に反してお酒を飲み、予定より長い時間飲み続けたことがある。あるいは予定よりたくさん飲んでしまったことがある」
【3】「飲酒量を減らしたり飲酒をやめた時に手が震える、汗をかく、眠れない、不安になるなどの症状が出たことがある」
【4】「飲酒を続けることでお酒に強くなった、あるいは高揚感を得るのにお酒の量が増えた」
【5】「飲酒のために仕事やつきあい、趣味、スポーツなどの大切なことをあきらめたり、大幅に減らしたりした」
【6】「酒による体や心の病気があり、それが酒の飲みすぎによると知りながら、それでも酒を飲み続けた」
以上を読んでわかるとおり、アルコール依存症は「飲酒の量」では判断されません。極端な話、毎日一升の酒を飲んでいても、翌日普通に仕事ができて体も壊さずにいられれば「健全な大酒飲み」であり、依存症とはなりません。
酒を飲まないとイライラしたり、飲んではダメな時でも飲まずにいられないのが依存の基準です。「退社後、家に着くまで我慢できず駅のホームで飲んでしまう」「翌朝運転するのに、酒が抜けない時間まで飲んでしまう」など自制がきかないのは完全な依存症です。「それでも飲んでしまう」「わかっちゃいるけどやめられない」わけで、自覚はしているのがアルコール依存症の特徴です。
さらに、ニコチン依存とアルコール依存で異なるのが「気分の変化」です。アルコールには神経伝達物質の働きを抑制する作用があり、飲むと不安が解消されるなど多幸感をもたらします。いわば脳を麻痺させるため、よけいなことを語る、他人に絡む、暴力やセクハラを起こすなど社会的な信用を失う危険性をはらんでいます。
何よりも怖いのは、不安などのうつ状態を解消させるために飲むケースです。酒はうつ状態を悪化させるだけで治療薬にはなりませんが、多くの患者はこのことを理解できず、嫌な気分を晴らすため酒に頼るわけです。
アルコール依存症が治りにくいのは、身近に入手しやすい点にあります。同じ依存症でも禁止薬物などと異なり、酒は近所でいくらでも売っています。「一杯だけ」という安易な気持ちで飲み始め、最初の一口で「今日が最後」となり、翌朝に「またやってしまった」。この悪循環から抜け出せなくなります。
病気を認識させて断酒し、断酒によるストレスに対処するなど3~4段階を経るのが治療法です。今は専門施設や薬があるため、うつ病よりは治りやすい病気でもあります。依存症を克服したい場合、まずは都道府県の精神保健福祉センターや精神科・心療内科などに相談してください。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。