テリー 拘束の始まりは、2015年6月ですよね。
安田 6月22日の夜、取材のためにトルコから国境を越えてシリアへ入ろうとしていたんですが、「シリア側の様子を見てくる」と出かけた案内人を待っていたところ、別のシリア人たちがやって来て「じゃあ行こうか」と声をかけられたんですね。てっきり話がついたものだと思って、そのままついて行ったら、翌朝、シリアのパン工場の事務所に入れられて「荷物を置いていけ」と言われ、そのまま車に乗せられ、別の建物に監禁されました。そこでようやく、その組織が自分が接触する予定の組織とは違うことがわかりました。
テリー そもそも、なんで安田さんを拘束する必要があったんですか。
安田 シリアに入った時、家族と友人に「着いたよ」というメッセージを送っていたんですが、どうやらそれをスパイ行為と解釈したらしいんですね。「何を勝手に、外と連絡を取っているんだ」と。
テリー じゃあ、その時メッセージを送ってさえいなければ‥‥。
安田 普通に帰って来られた可能性は高いです。なにしろ戦時下ですから、どの組織も、我々のようなフリーランスから大手の報道機関まで、分け隔てなくスパイ容疑をかけるんですよ。
テリー フリーランスは後ろ盾がないから、危険度がケタ違いじゃないですか。
安田 だからこそ、事前に組織内の人間、もしくは組織に顔が効く人物に話をつけてから現地に入るんですね。ところが、今回はまったく知らない組織と合流してしまったわけです。彼らからすれば、急に知らない人間が来たわけですから、疑ってかかるのは当然ですよね。そこでうまく容疑を晴らして交渉すれば、そのまま取材できることもあるんですが‥‥。
テリー 今回はうまくいかなかった。
安田 ええ。容疑を晴らすために自分の経歴を話したのですが、その流れで彼らは2004年に私がイラクで拘束された時のニュースも調べてきたんですよ。そこから、「解放されたということは、身代金が払われたに違いない」と考えたらしいんですね。
テリー あの時は、スパイ容疑がすぐ晴れて、3日間で帰されたんでしたよね。そもそも人質扱いではないですし、そんな短い期間で身代金が用意できるわけもないじゃないですか。
安田 しかも、後藤健二さん、湯川遥菜さんが「イスラム国」に殺害される事件が、今回の拘束直前に起こっているわけです。日本政府が身代金を払わなかったから2人は亡くなったわけですから、それも説明したんですが、彼らは「いや、人質や拘束グループによっては払うかもしれない」と考えたんです。
テリー テロリストと交渉なんてしないでしょう。
安田 彼らいわく、「自分たちはイスラム国のように人殺しもしないし、パン工場をはじめ、いろいろなプロジェクトで資金を作り、国内避難民の支援もしている、いいグループなんだ」と。
テリー 「いいグループ」も何も、組織名をいまだに明かしてないし、結局、悪事を働いているんだから、イスラム国と同じだよ。
安田 ところが、彼らは大義のためにいろいろとこじつけて、自分たちを正当化するんですよ。
テリー そういう交渉の間に、生命の危機は感じましたか。
安田 すぐ殺されることはない、とは思いましたが、最終的にどうなるかは彼らしだいですから。「無期懲役になるかも」という恐怖はずっとありましたね。