薬には、医師の処方箋が必要な医療用医薬品と、処方箋なしで買える一般用の市販薬があります。ドラッグストアで売られている市販薬をみると「第2類医薬品」「第3類医薬品」と記されており、これらは副作用の可能性が低く、安心して買える薬がほとんどです。同じ市販薬でも「スイッチOTC(=Over TheCounter)」と呼ばれる「要指導医薬品」や「第1類医薬品」はドラッグストアの店頭には置かれず、店内にある調剤薬局で販売されており、購入時には薬剤師による対面販売が義務づけられています。
中でも要指導医薬品は、インターネットでの購入が禁じられており、薬剤師は購入希望者が使用者本人であるか、年齢、他の医薬品の使用状況、性別、症状、現在の疾病、過去の副作用などを細かくチェックします。
こうしたスイッチOTCが出回るようになった背景に、医療費が日本の財政にとって大きな負担になっている現状があります。日本国民が医者にかかると診療費の7割(後期高齢者は9割)を国家がもつことになりますが、市販薬なら患者の10割負担です。超高齢化社会を迎えた昨今、「簡単な病気は薬で治してくれ」という国の本音が、見え隠れしています。
スイッチOTCはもともと医師の処方箋を受け、薬剤師が渡す処方薬でしたが、長期間使っても副作用などのトラブルが少なかった医療用医薬品を市販薬として販売する仕組みです。通常の市販薬に比べて薬効が高い分、副作用の可能性も大きいとされていますが、ここで質問です。副作用の危険性を小さくする薬の服用方法は存在するでしょうか、しないでしょうか。
この制度の導入時、医者たちは大反対しました。患者が減って利益が減ることと、強い薬で症状を抑え込むことで、本来の大きな病気を見逃す危険性があるからです。
例えば、スイッチOTCの代表的な内服薬として鎮痛剤で知られるロキソニンS。ロキソプロフェンナトリウム水和物という物質を含むロキソニンSは、処方薬として「関節リウマチ・腰痛・歯痛」などに効くとされ、多くの医者が外科手術後の痛み止めとして使用してきました。
現在では頭痛や生理痛の鎮痛剤として使用され、胃への負担が少ない酸化マグネシウム=胃薬をプラスしているロキソニンSプラス、ひどい頭痛に効くロキソニンSプレミアムの3種類が「第1類医薬品」として販売されています。ただ、ロキソニンSプラスは胃薬を飲んでいると重複投薬になってしまいますし、ロキソニンSプレミアムは眠気が生じるので運転中の服用は非常に危険です。タクシーやトラックの運転手さんが、仕事中に使ってはいけない薬と言えるでしょう。
こうしたスイッチOTCの多くには、使用上の注意がかなり細かく記載されています。ロキソニンSの場合には「この薬でアレルギー症状を起こしたことがある人」「解熱剤でぜんそくを起こしたことがある人」「胃・十二指腸潰瘍、肝臓病、腎臓病、心臓病などの治療を受けている人」「出産12週以内の妊婦」などと記されています。
つまり、副作用の危険性が市販薬より高めであるスイッチOTCは、使用上の注意をよく読まねばならない薬なのです。用法に沿って飲むことが非常に重要で、副作用の心配を減らすことにつながります。また、通院する際には重複投薬をしないよう、医師に市販薬を含めて薬を管理してもらうこともおすすめします。
またスイッチOTCに限らず、薬は1週間単位で考えてください。1週間ほど使っても症状の改善が見られない場合、病状に沿った服用ではないおそれがあるので、使用を中止して別の病気を疑うべきです。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。