東電の刺し網で「お化け」アイナメは捕獲され外海に出なかった。しかし、前出・五十嵐場長には万全とは映っていない。
「地元漁協関係者らは漁業組合長会議に出てくる東電社員に、高いレベルの汚染魚が出てこないよう専用港の対策を毎回強く言っています。開放部にフェンスを作るというのですが、今はその代用として刺し網を設置し、防いでいるという状況です。専門家の私の考えでは、港内の魚を遮蔽・捕獲する能力は刺し網のほうが強い。フェンスと刺し網のダブルでやるべきだと強く思います」
そして、東電だけでなく政府機関などによる正確な情報のアナウンスも必要だという。
「検査や、海の中の調査の結果だとか、それがほとんど国民の中に知れ渡っていないのです。我々の水産試験場のHPにもずっと出していますけど、ほとんどの人は見てくれない。調査結果を見やすい形で、すぐ掲示するように心がけているんですけどね‥‥」
現在セシウムばかりに注目が集まっているが、一般消費者の一部は漏れ出た放射性ストロンチウムにも危惧を抱いている。その物質の特性を語るのは、日本科学者会議の児玉一八氏だ。
「カルシウムと化学的性質が似ているので、骨にとどまるのです。向骨性核種といって、体から抜けていく時間(実効半減期)が20年近くと言われています」
さらに、その危険性を岐阜環境医学研究所の松井英介医師が続ける。
「放射性ストロンチウム90が他の核種に変わる時、β線しか出さない。内部被曝はホールボディカウンターで測るのですが、β線は体内で10ミリ程度しか飛ばないとされており、外に出てきません。つまり測ることができないのです」
造血器官である骨髄にもとどまるため、ガンばかりか白血病のリスクも高まる。盛んにカルシウムを摂取する胎児や乳幼児には影響が大きく、先天性障害や成長障害を起こす危険性も増すという。
「ストロンチウムは歯にも集まります。国は今すぐ乳幼児の抜けた乳歯を調べ、どの程度のストロンチウムが体の中に蓄積されているのか調査するべきです。
私たちの体は7割が水でできています。水に放射線が当たると水の分子が切断されイオンになります。水は2つの水素と1つの酸素でできていますが、分離すると水酸基イオンができ、これが毒性を持っているのです。また、再結合する時に酸素が1つ余分に付くと、消毒薬として使われる過酸化水素水になります。こうした毒性物質が細胞内で作られ、それがDNAに傷を付けるのです」(前出・松井医師)
直接、放射線が当たって付けられる傷より、こうしたイオン化による影響のほうが大きいというのだ。そしてこの物質を魚などの中から調べるのも困難だという。前出・児玉氏が続ける。
「ストロンチウムを測るには、検体を化学的に処理して他の放射線を出す物質を取り除かなければなりません。これは専門の施設でないとできないのです。また、放射性のストロンチウムを取り出すには放射線管理区域でないとできない。さらには分離してから3週間もの時間がかかるのです」
今回、東電広報部に事故で海水に流出したストロンチウムとセシウムの総量がどれほどなのかを聞くと、担当者はこう答えた。
「正式にはまだ判明していない状態です。やはりデータというものがないという形になるそうです」
わからない、知らない、何もしない。震災から2年たっても何も変わらない東電だが、前出・五十嵐場長が語る。
「ストロンチウムのことは消費者からよく聞かれます。水産庁がデータをHPに掲載しているのですが、広報が弱く知られていない。一方で、福島の漁業関係者の東電に対する怒りと不信感は今でも強く、我々は調査をやっていますけど、それは本来、我々がやるべき仕事ではないと今でも思っています」
安全なものしか流通させない、という福島県漁業関係者たちの強い思いを、東電はどう見ているのだろうか。