韓国は日本に先駆けて、TPPの二国間版とも言えるFTA(自由貿易協定)をアメリカと結んだ。ところが、これは韓国にとっては百害あって一利なしのワナ。日本は韓国の二の舞だけは避けねばならない。経済評論家の三橋貴明氏が、その秘策を開示する。
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韓国経済は逼迫し、アメリカがまる儲け──。12年3月に発効されて、ちょうど1年が経過した米韓FTAは、韓国がアメリカにまんまと一杯食わされた形となっているのが現状だ。
「結局、韓国にとってはウォン安になればFTAは意味がなくなります。韓国がアメリカに輸出する工業製品、例えば自動車の関税は2.5%、テレビは5%にすぎない。その5%の関税を取っ払ってもらっても5%以上のウォン安になってしまう現実では、メリットはありません。何より、韓国は米の関税撤廃は守りましたが、『その他の項目』を全て受け入れてしまった。これが間違いでした。韓国国内でも米問題ばかりがクローズアップされ、本質がぼやけてしまった」
間違いの元だったという「その他の項目」とは何か。
「ここにTPP交渉に関する政府内の説明文書があります」
こう言って三橋氏が取り出したのは「TPP交渉で扱われる分野」と題した一枚の書類。物品市場アクセス、原産地規制、政府調達、知的財産、越境サービス、金融サービス、電気通信、投資、環境、労働、紛争解決‥‥と、全21項目にわたって説明がなされている。
「これを見ればわかるとおり、TPPには全部で21項目が存在します。ところがマスコミは(韓国同様に)米をはじめとする農業、工業の関税撤廃問題ばかりに言及し、全体を報道しようとしない。農工業は21分の1にすぎず、中でも米にいたっては、さらに少ない比率のものなのです」
農工業は「物品市場アクセス」に含まれる案件。韓国はこの項目以外の20項目について、アメリカの言いなりに協定を結んでしまったのである。その結果、どうなるのか。
「例えば医療費が確実に上昇。するとアメリカはこう言います。『大丈夫です。アメリカが医療保険サービスをご提供しますから』。あるいは著作権意識の低い韓国は、知的財産の保護でどんどん訴えられるでしょう」
日本もまた、農工業の項目ばかりに目を向けていると、韓国と同じ悲惨な道を歩むことになるのだ。「自民党内にはTPP参加に反対する国会議員団が240人以上おり、推進派35人を圧倒的に上回っています。推進派は『アジアの成長を取り込む』『日本の農業が世界に羽ばたく』などと喧伝しますが、政府はとにかくこの21項目の情報を国民に公表すべきでしょう。参加交渉において日本はグダグダとやりながら、結局は参加しないで逃げるしかない。お得意の『先送りに次ぐ先送り』です。まず国内で議論を深めましょう、と。議論すれば当然、紛糾する。そうして時間稼ぎをすればいいんです。アタマからノーとは言えないですから」
牛歩戦術で時間切れを狙え、と言うのである。
「そもそもTPPで日本にメリットはまったく生まれません。唯一、安い農産物が入ってきて物価が下がるというメリットはありますが、デフレの国が物価を下げてどうするんだという話になります。デフレはさらに進行し、円高になる。すると製造業もダメになるわけですから。アメリカは日本に投資をして配当を得たい、金儲けをしたいだけなんです。実はアメリカ国民もTPPには関係がない。投資家の問題であり、彼らを利するだけのシステムです」
安倍総理は施政方針演説でTPP参加問題をうやむやにした。このまま先送りを見据え、進むべきなのだ。