羽生結弦がキレッキレの演技で観衆を沸かせている。 去る5月24日に千葉市で始まったアイスショー「ファンタジー・オン・アイス」。故障のため、世界選手権で失敗した4回転ジャンプも決めてみせるなど、まさに絶好調だ。
「もし、今の演技力だったら、世界選手権の優勝は間違いなかったのに…」
そんな声も漏れていたそうだ。アイスショーで19-20年シーズンのさらなる躍進も予感させる羽生を見て、「世界」が動き始めた。
「国際スケート連盟(以下=ISU)も選手のケガ防止,万が一の時に備え、よりいっそう配慮しなければという声が高まってきました。“選手のケガを防ぐ最新機器”の導入も一気に急ぐべきとされています」(体育協会詰め記者)
最新機器には「ケガ防止」用と「有事の際の迅速な対応」用の2つがあるとされる。まず、ケガ防止用の機器についてだが、周知のようにフィギュアスケートには、演技直前に行われる6分間練習がある。大勢の選手が一斉にリンクに下り、同時に演技の最終チェックを行う。14年11月のGS中国・上海大会の練習の際には、中国選手は羽生との衝突を避けられず、ケガを負わせてしまった。頭に包帯を巻き、アゴの当たりに絆創膏を張っての痛々しい演技姿も忘れられないが、このハイテク映像機器は、各選手の動きを予測し、事前に警報を発することができるという。
「また、選手同士の衝突が起きてしまった場合にも迅速な対応が必要です。他競技でも衝突による脳震盪のアクシデントが起きていますからね。大半の選手がその場では『大丈夫』と言うんですが、後々になって大事に至るケースも少なくありません。そうした事態を防ぐために、その場で正確な診断が迅速にできる最新機器もあり、その導入についても議論されています」(前出・体協詰め記者)
ケガを防止する機器の導入には前向きな声も多いそうだが、最新のことだけあって、値段も高額だという。アメリカ国防総省、食品医療メーカー、医学学会、ITメーカーなどが関わったため、開発研究段階で3600万ドル(約40億円)が投資されたという。販売価格は未定。しかし、この最新機器を導入すると決まった場合、設置や扱い方の講習代も含め、日本円で何千万円も支払わなければならないそうだ。
諸外国のスケート団体も、選手のケガ防止と迅速な対応に異論はない。しかし、その費用は誰が払うのか?お金の話になると、関係者は一様に無口になってしまうそうだ。羽生のキレキレの演技での「復活」はよろこばしいことだが、スケート界は、思わぬところで、関係者が頭を悩ませる事態に直面しているようだ。
(スポーツライター・飯山満)