たった1人の暴走で、平成以降最悪となる人命が無残に奪われた。数々の名作を送り出してきた「アニメの聖地」を襲った放火テロ。その動機はあまりに稚拙で異様なものだった。
「死ね!」
ガソリンを入れたバケツを持って鉄筋コンクリート3階建ての1階フロアに侵入した男はそう叫び、受付近くでバケツをブチまけると、持っていたチャッカマンで火をつけた。その瞬間、炎と煙はたちまち階段を駆け上がる。
「キャー!」
女性の叫び声が響き、1階のトイレからは「助けて!」という声が。
「2階から次々と人が飛び降りていた。火だるまで逃げていく人、全身にヤケドを負った人に近くの人が水をかけていたりも‥‥」(近隣の目撃者)
屋上付近には、19人が折り重なるように倒れていた。建物はほぼ全焼し、33人の死亡が確認、35人がヤケドやCO中毒で救急搬送された。が、さらにその中の1人が死亡したことも判明。犠牲者は計34人となった。
阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されたのは7月18日、午前10時半過ぎ。惨劇に見舞われたのは、京都府宇治市にあるアニメ制作会社「京都アニメーション」だった。駆けつけた京都府警の捜査員に取り押さえられた放火殺人犯、職業不詳・青葉真司容疑者(41)=埼玉県さいたま市=もまた、両膝の下部分が燃え、足は血だらけ。手足や胸にヤケドを負い、髪はチリチリに焦げ、腹には入れ墨が。その顔は、
「緑の怪物のようだった」(近隣の目撃者)
身柄確保された際、青葉容疑者は、
「パクりやがって! 小説を盗んだから放火した」
と恨みを口にしたという。複数の刃物も所持しており、強い殺意があったと思われる。
標的とされた通称「京アニ」は85年に創設され、「けいおん!」「らき☆すた」「涼宮ハルヒの憂鬱」などのヒット作を送り出す。その質の高いアニメーション手法は、海外にもファンが多かった。
凶行につながったとされる「予兆」を、同社の八田英明社長はこう明かしている。
「作品や制作者に対するクレームや殺害予告などの脅迫がしばしば会社に届き、警察に相談したこともありました」
社会部記者が言う。
「これが青葉容疑者の行為だったのかはまだ不明ですが、埼玉から京都まで出向いて犯行に及んだのだから、執拗な動機であったことは間違いない」
実は青葉容疑者は、過去にも事件を起こしている。12年6月20日、当時住んでいた茨城県常総市に近い坂東市のコンビニに押し入ると、店員に包丁を突きつけ、レジから2万1000円を奪って逃走。ただし、11時間後に、警察に出頭し、次のように供述したのだった。
「遊ぶ金が欲しかった。オウムも次々捕まっており、自分も逃げ切れないと思った」