「いったい、いつ建てられるのか」──。この国ではある建造物の完成を巡って、こんなセリフをよく聞く。一つは、東京五輪の選手村が大会後はマンションになる計画を聞きつけ、一獲千金を狙う不動産業者らの歓喜の声。もう一つは、いまだ完成しない「災害公営住宅」を待つ被災者たちの嘆息まじりの声だ。この落差の現場を追った。
「畳の部屋で落ち着いていただく」
9月17日、林芳正農水大臣(52)は定例会見で、海外アスリートたちを迎える選手村での日本独自の「おもてなし」構想を述べた。
選手村が建設されるのは、中央区晴海地区。3方向に東京湾を臨む約44ヘクタールの広大な土地に、宿泊棟はもちろん、プールにジョギングコースまで完備した豪華な造りとなる予定だ。
そのうえ、林大臣が言うような和風の「おもてなし」を行うとなれば、予定されている総工費1057億円では足りないのではないかとさえ思えてくる。
そんな状況を反映してか、これまであまり人気がなかった晴海地区ではマンションの建設ラッシュとなっている。しかも、選手村は大会後に民間に払い下げられて、マンションとして分譲される計画があるという。すでに、建設業界と不動産業界では「五輪特需」が始まっているのだ。
しかし、にわか好景気にも東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県、岩手県、福島県の被災者にとってはシラけるばかりなのだ。震災から2年半を経た今も、3県では21万人以上の人々が避難生活を強いられている。その現状の前では、五輪フィーバーなど異国の出来事のように映ってしまうのも無理はない。
震災で最も多くの死者を出した宮城県が、震災から2年半となる9月11日に発表した「復興の進捗」という文書によると、8月末現在、仮設住宅などの仮住まい中の被災者は9万4413人。こうした被災者が安住の地を得ることが焦眉の課題となっている。
その解決策の一つが「災害公営住宅」だ。自力で自宅を購入できない被災者のために、自治体が造成を進めている賃貸住宅である。ところが、全国で約2万5000戸が計画されているが、約500戸しか完成していないというお寒い状況が続いている。
宮城県でも1万5754戸が計画されながら、完成したのはわずか117戸。最も多くの災害公営住宅建設が計画されている石巻市では、計画4000戸に対して完成は40戸とわずか1%というありさまである。
いや、完成しているだけマシかもしれない。いまだ「0戸」の地域もある。
宮城県南部の亘理〈わたり〉町である。人口3万5000人を超える同町は震災前、仙台いちごの主要産地として知られていた。
震災では震災関連死も含め死者は306人、住宅・建物の全半壊は約3500戸、約4000世帯が被災する甚大な被害を受けた。
亘理町では町内5地区が防災集団移転促進事業により内陸に移転することが決まり、その候補地が復興計画では町内に5カ所ある。また、前述の災害公営住宅は、3カ所516戸の建設が決まっている。
9月11日時点の事業着手率は、集団移転促進事業が100%、災害公営住宅では77.5%。数字だけを見れば、全ては順調に進んでいる。なのに、「0戸」なのは、亘理町の“おかしな事情が潜んでいた。