「東京中央銀行」から「東京セントラル証券」へと出向させられた半沢。営業企画部長となり、役職こそ次長から1階級上がった形だが、セントラル証券は本体メガバンクとは規模も業績も比較にならない系列子会社であった。半沢を待ち受けていたのは、銀行からの出向組ばかりが重用され、力のある生え抜き社員は、すっかりやる気を失っているという最悪の環境‥‥。
物語は、そのセントラル証券に新興IT企業「電脳雑伎集団」社長夫妻から、別のIT企業「東京スパイラル」を買収するプランを持ち込まれたところから始まる。その大任を請け負った半沢は、ライバル企業の株を強引に買い進めるという敵対的買収だけに、慎重に事を進める。
ところが、部下の不手際から突如「電脳──」から契約を解除されてしまう。しかも、半沢チームに代わって買収のアドバイザリー契約を結んだのは東京中央銀行の証券営業部。つまり、半沢は古巣に契約を横取りされてしまうのだ。
その直後、銀行側は市場外取引という奇襲策で「スパイラル」の3割の株を取得、さらに株式公開買い付けを発表し、およそ2カ月間で残りの2割の株を買い集めて、過半数株を取得する作戦に出る。
IT企業の買収劇、ホワイトナイト(敵対しない協力的な企業)の登場、IT業界の風雲児‥‥。一連のライブドア騒動を連想させる目まぐるしい展開の中で、もちろんやられっぱなしの半沢ではなかった。銀行の強引なやり方に反発を覚えた半沢は、買収の危機にある「スパイラル」と買収防御の契約を結ぶ。ついには「やられたらやり返す、倍返しだ!」と、企業買収劇を巡り古巣と相まみえることになるのだ。
親会社に対する謀反とも言える対抗策に半沢を問題視する銀行幹部は、半沢を人事部付の閑職に追い込もうとするも失敗。他にも銀行本体とは縁遠い中堅企業の財務部長へ島流しを画策するなど、薄汚れた陰謀を次々と企てる。
これに対し、半沢はドラマでも登場した同期の渡真利、元上司の内藤ら旧知の力を借りながら、包囲網をかいくぐる。
そして、ついに買収劇の黒幕が銀行中枢部にいることを突き止める。さらに、銀行側の買収の枠組みには重大な欠陥があることを見抜くのだ。
クライマックスでは、再びあの取締役会議に乗り込み、最後の黒幕と対峙する。はたして、古巣との戦いを半沢は1人で戦い切り、再び銀行へ戻ることができるのか──。
ここまでが、池井戸潤氏の小説「ロスジェネの逆襲」(ダイヤモンド社刊)のお話である。ドラマ「半沢直樹」は、池井戸氏の原作小説「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」(いずれも文藝春秋刊)が下敷きとなっている。その小説「半沢シリーズ」第3弾となるのが「ロスジェネの逆襲」であり、ドラマの続編の原作となるものと期待されている。タイトルの「ロスジェネ」(ロストジェネレーション)とは、就職氷河期に入社した若い世代を指す。売り手市場のバラ色の就職戦線だったバブル入行組の半沢とは反目する若い世代とのギャップをどう解消するのかにも注目だ。
さらに、現在は「週刊ダイヤモンド」で「半沢シリーズ」第4弾の「銀翼のイカロス」が連載中だ。舞台は業績悪化で破綻が懸念される「帝国航空」へと移り、半沢は頭取命令で巨額の赤字を抱えている航空会社の再建を担当することになる。半沢がバンカーとしての威信をかけて戦う相手は元女性キャスターの国交相であり、こちらも続編の原作になる可能性はある。ドラマ続編が、映画なのかドラマなのかも、今のところ未定だが、目の前に続々と立ちはだかる巨悪をなで斬り退治した果てには、「頭取・半沢直樹」になるまで物語は続くことになりそうだ。