私が最後に帰還困難区域に入ったのは、この10月のことでした。あらためて感じたのは、被災地がますます殺伐としてきたことでした。家屋が朽ちかけ、田畑は荒れ放題でセイタカアワダチソウが生い茂っている。
その一方で、サルやイノシシが繁殖している。南相馬市の住宅街では、山から下りてきたイノシシが出没し、真っ昼間から走り回っているんです。イノシシは自身も被曝し、山で放射線量の高い木の実を食べているから、ものすごく放射線量が高い。車にひかれて死んでいるイノシシだけで、3頭も見ました。
私は戦場の取材経験もありますが、放射能という目に見えないものが相手の今回の取材では違った恐怖に襲われます。原発事故から1カ月くらい双葉町の知人宅に泊めてもらっていましたが、もし1人だったら、耐えられたかどうか。逃げずにいた人がそばにいたからこそ、とどまることができたんだと思います。
一方で、帰還困難区域から仮設住宅に移り住み、心労が重なって亡くなる人が相次いでいます。事実、私の知人も心不全で亡くなった。そして埋葬もされず、お骨が仮設住宅に近いお寺に置きっぱなしになっているんですよ。そんな人がいっぱいいる。
安倍総理はオリンピックのプレゼンテーションのスピーチで、「状況はコントロールされている。私たちは決して東京にダメージを与えない」と語りましたが、「汚染水による影響は福島第一原発の港湾内で完全にブロックされている」とどうして言えるのか、不思議でなりませんよ。
国民は7年後のオリンピックに沸いているが、「復興は後回しなのか」と福島県民は冷めた目で見ています。
放射線量は依然として高く、素人ばかりの作業員。彼らに作業を急がせても事故が起きるだけです。私は再臨界の可能性すら十分あると見ています。
現状を直視し、最善の手を打たないと手遅れになるとつくづく恐怖にかられます。
◆文・八木澤高明氏