ただでさえ治安悪化におびえる住民の不安を、さらに増大させるようなことをするのだろうか──何より帰還者が増えないのだから市行政にとっても住民の不安解消は喫緊の課題であるはずだ。そこで直接、この問題について南相馬市役所危機管理課に問い合わせてみた。しかし、応対した男性職員からの答えは、思いもしないものだった。
「いやぁ、そんな話はこちらでは知らないんです。噂では聞いたことがありますが、デマかもしれませんよ」
このことを佐藤氏に話すと、まったく違う説明を同じ部署から受けたという。
「中国人の姿を見かけた翌日、電話を入れました。これまで、さんざん問題が起きてるのに、これからさらに問題が起きたら、あなたたちは責任取れんのか? って。その時は外国人作業員が入ってくることを認めたうえで、『業者が勝手に入れているので、南相馬市では迷惑をしているんだ』という口ぶりでした」(前出・佐藤氏)
そこで今度は環境省の出先機関である福島環境再生事務所に、どれだけの外国人除染作業員がいて、4月から増える見込みなのかを尋ねてみた。すると担当者はこう答えたのだった。
「こちらで外国人の方が働いているのは事実ですが、正確な数や国籍については、企業に任せていますので、把握していない。4月から増えるという話は聞いております。その中にどれだけ外国の方が含まれているかは把握しておりません」
住民には正直に答え、取材には「デマ」とウソをつく──臭いものに蓋をして「原発安全神話」を作り上げたことと同じことが、今も続いているようだ。
「市は住民に帰ってこいと言ってます。そんな時に、外国人作業員がいっぱい入ってくるなんてことが知られたら、帰ってこようと思った人も思いとどまっちまうでしょ。だから、できるかぎりこのことについては広めたくないんでしょう」(前出・佐藤氏)
原発事故関連での外国人労働者導入は、単に南相馬だけの問題にとどまらない。それは、事故処理そのものの「今」の問題点をあぶり出しているからだ。
1つは「経済」の問題である。
「環境省が担当する地域は、まだまだ放射線量が高い帰還困難区域などが残っています。建設会社にしたら、外国人を使うことによって、安く抑えようという腹づもりなのでしょう。人件費を安く抑えることができることに尽きると思います」(建設会社社長)
また、除染作業員の給与「ピンハネ」問題は深刻で、多くの労働者は宿泊費などの諸費用を天引きされる。約3万円支払われる日給は、作業員の手元には1万円しか残らない。高放射線量地域で作業して、危険手当がついても1万5000円前後だという。「ピンハネ」が問題化するリスクを少なくするためにも外国人作業員を、というのもうがった見方ではないだろう。
今月9日、政府は除染の範囲を、これまでは対象となっていなかった里山まで広げると発表した。住民の感情をよそに、人員確保のためにも、福島で外国人除染労働者数が増加することは、現状を考えれば確定的となっていると言えよう。
ジャーナリスト:八木澤高明