平成から始まった「映画のヘア革命」の歴史。思わず劇場でのけぞった瞬間を、映画評論家・秋本鉄次氏とともに振り返る。
鈴木砂羽主演の「愛の新世界」(94年、東映アストロフィルム)は、日本初の“ヘア出しマッパ”の映画を大々的にアピールした。
「エンディングで鈴木と片岡礼子が浜辺でたわむれるシーンなどにヘアが映っています。ただ、厳密にはアラーキーこと荒木経惟氏が撮った写真を並べたものだった」
これ以前にも、五社英雄監督の遺作となった「女殺油地獄」(92年、松竹)で、樋口可南子の着物の下からヘアがのぞいたと言われた。が、あまりの暗がりのため、判別は不可能という結論だったが…。
では、動く映像としての初ヘア女優は誰か。奇しくも同じ95年に公開された「マークスの山」(松竹)の江口ナオと、「眠れる美女」(ユーロスペース)の大西結花の2人で、大西については、
「バスルームを出た湯上がり、唐突にヘアが見える形で立っていました。あの『スケバン刑事』シリーズのひとりが…と感慨深かったです」
大西はこの撮影について、週刊アサヒ芸能に残しているコメントによれば、これが最初の脱ぎの場面で、「最小限のスタッフだけと気を遣っていただいたんですよ」とのこと。続けて「でも私、やるって決めちゃうと気にならない性格なんです。あそこに何人いようが平気だったと思います」とも述べていた。
ともに時代を象徴する性のシンボルだった杉本彩と壇蜜は、ともに同じ種類のハードな性プレイを扱った作品でヘアを見せている。秋本氏によれば、杉本は名作をリメイクした「花と蛇」(04年、東映ビデオ)でプレイを仕込まれるシーンで、はりつけにされながら野性的なヘアを公開したという。壇蜜は初主演作「私の奴隷になりなさい」(12年、角川映画)で、やはりM女として飼い慣らされる場面で初脱ぎを見せました。
「壇蜜はその後に『甘い鞭』(13年、角川書店)でも、複数の男に調教される形でヘア出しに挑戦しています」
お騒がせ女優である荻野目慶子は、新藤兼人監督の「三文役者」(00年、近代映画協会)で、生々しい“密林”をファンの眼前に。
秋本氏によれば、「新藤監督は60年代から脱がせの名手でした」というが、ここでも荻野目を「生活感あふれる湯上がり姿」でヘアを見せた脱ぎ姿にさせたという。「まったく手入れしていない」密毛が、「いかにも新藤監督らしいナチュラルさでした」とのことだ。
杉本彩もそうだが、近年、リアルな脱がせ方をするのは石井隆監督だ。佐々木心音がドールに扮した「フィギュアなあなた」(13年、角川映画)では、歴代でも最強クラスの密集ぶりを見せつけた。
「フィギュアが生命を持って人となる場面、まさしく板のりが貼りついているのかと思うほどの濃さ。プロポーションも抜群なので、スクリーンに映えるシーンでした」
同じく、園子温監督も“刺激的なマッパ”に挑んだ。あの水野美紀が、東電OL事件を題材にした主演作「恋の罪」(11年、日活)で見せた衝撃とは─。
「浴室にいて、電話が鳴って出てくるシーンでヘアがくっきり映ります。ちょうど事務所絡みのゴタゴタで、ドラマにあまり出演できなかった時期」と解説する秋本氏によると、「そんな境遇への意地」としてマッパ姿を見せたのかもしれないとという。「かなりの決断だったと思います」とも話す。
水野にとっては第一線へ返り咲く契機となった。
ベテランの筒井真理子も、50歳を過ぎて路線変更。特に主演作「よこがお」(19年、KADOKAWA)では、こんな場面を見せた。
秋本氏によれば、アパートでの情交後、マッパのまま明るい窓辺に立ち、観客に美バストとヘアを見せてくれるという。
「なければないでいいシーンなのに、しっかりと脱いでくれるところに、彼女の心意気を感じましたね」(秋本氏)
有森也実も清純派から脱皮した一人。「いぬむこいり」(17年、太秦)では、半獣人との“情交”だけでなく、浜辺で初ヘアを見せている。
「映画界で今いちばん脱げるのは瀧内公美ですね」と秋本氏が話すのは、柄本佑とのダブル主演作「火口のふたり」(19年、ファントム・フィルム)で全編がほぼ柄本佑との情交シーンだという。家の廊下での“立った姿でバック体勢”の寸前シーンや、情交後にベッドの縁に腰かけているシーンなどで「整ったヘアが鎮座していました」とのことだ。
息を飲む瞬間だったことは明らかだ─。