昭和・平成の時代には、集まった記者たちをうならせる、型破りな記者会見も少なくなかった。おそらくその代表格といえるのが、隠し子発覚騒動の際に、お得意の「霊界話」を持ち出し、報道陣を圧倒した丹波哲郎ではなかろうか。
当時66歳だった丹波が会見を開いたのは、1989年6月6日。問題の「隠し子」とは、新東宝出身の元女優との間に生まれたA君(当時14歳)。丹波とこの女性は、映画「皇太子の花嫁」で共演。その後、彼女は芸能界を引退し、A君を出産したのだという。
白いハンチングにサングラス。上機嫌で会見に臨んだ丹波は開口一番、
「本当も本当、大本当! 隠していたなんて、とんでもない。そもそも人間の縁は霊界と深くつながっていて、あの子が私の子供として生まれるのは、前世から決まっていたんだよ」
だが、取材陣から「隠し子」という言葉が出た瞬間、表情が変わり、
「本当に知らなかった? ふーん。(A君母子が住む)府中あたりにいくと、タクシーの運転手だって知っていたけどな。知らない者はいないというくらい知っている。だから全然、隠し子じゃない」
そう説明すると、憮然とした表情を浮かべたのだった。
聞けば丹波は、A君出産の4カ月後に認知。以降、母子の経済的援助も行ってきたという。
とはいえ、丹波は既婚者で、子供もいる。報道陣から「つまり、不貞ですよね」という質問が出る。すると、先ほどより一段階、声のボリュームを上げた丹波は、持論を展開する。
「不貞!? 役者はね。そういう艶ダネがあるから役者なんだよ。色っぽくない役者なんて、役者じゃない。そういうもんなんだよ、俳優というのはね。そんな不貞なんてもの、見・た・こ・と・もない!」
そこで私が「でも、奥様の気持ちを考えると、どうなんでしょう」と質問する。
「そんな愚かしい質問には答えない! 俺は諸君とは違うんだぁ。なんていうか、俺は霊界と人間界を両股にかけているんだ。子供というものはね、親が呼び寄せたもんじゃないんだよ。子供の方が狙って出てくる」
つまり丹波理論によれば、A君は「あの親のもとで修行したい」として、やってきた。したがって、それは父親である自分を認めた息子の意思なのだ、というわけである。
だがこの騒動、霊界では問題にならないのだろうか。そんな質問に対しても丹波は、
「そんなもん、ならんね。人間界で責任を取り、我慢する。それが修行というもんだから」
笑顔を交えながらも、終始、浮世離れした発言で報道陣をけむに巻いた大物俳優。当時はちょうど、宇野宗佑総理による不貞相手「指3本」騒動が話題になっていた。そんなことから、記者たちの間では「政治家も丹波の弁明を見習うべき」という、おかしな称賛の声が出たものである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。