テリー 宇宙飛行士には、なんでなろうと思ったんですか。
野口 それはもうベタですけど、アニメの「鉄腕アトム」から始まって、「宇宙戦艦ヤマト」とか「銀河鉄道999」が好きで。宇宙船で宇宙を駆け巡るのが子供の頃からの憧れだったんです。
テリー 多くの子供が夢見ることですよね。
野口 ただ、職業として意識したのは高校生の時ですよね。進路をどうしようかという時に、テレビでスペースシャトルの打ち上げを見て、「あ、こういう仕事があるのか」と。理科の教科書に載っている月面着陸とかの話ではなくて、「実際に今の人間が宇宙に行くことが仕事になるんだ」と、そう思ったんですね。
テリー 単なる夢じゃなくてね。
野口 ただ、その時は毛利(衛)さんよりも前ですから、まだ日本人に宇宙飛行士がいなくて、なり方がわからなかったんです。それで大学卒業後は石川島播磨重工業(現・IHI)に入社して、「宇宙飛行士の募集があったらいいな」と思いつつ、飛行機のエンジンを作る仕事をやっていたんですけど、4、5年目ぐらいに募集があったので、JAXAへ移りました。
テリー 実は僕の友人も応募して、落ちてるんですけども、宇宙飛行士になるのって何がいちばん大切なんですか。
野口 大切なのは1つです。運です。
テリー 運!?
野口 はい、運だけです。
テリー 僕が思ったのは、特に最終選考まで残るような人って、誰が受かってもいいぐらい全員優秀だと思うんですよ。そうすると長い間、狭い宇宙船にいるわけですから、最終的には人間性みたいなものが、すごく重要なのかなと。
野口 そうですね。ですから「運」というのは、別にクジでガラガラポンというわけではなくて、運をたぐり寄せる人の力「人間力」だと思うんですね。テリーさんのおっしゃる通り、ある意味では誰でもいいんですよ。間違いなく、いちばん優秀な人が選ばれる試験じゃないんです。
テリー ああ、なるほど。
野口 私が「運」だと思うことの1つに、例えば医学検査がことのほか厳しくて、日常生活に、ほぼ影響がないようなところまで、ありとあらゆることをチェックされるんですね。他の人よりほんの少しだけ無重力への耐性が不安視されるとか、心臓の脈動がちょっと違うとか、そういうことでバサバサ切られてしまうんです。
テリー 無重力の中で暮らす試験なんてないですよね。
野口 そうなんですよ。ですから、今の医学の知識の中で、少しでも「これは不安だ」とか「危険かもしれない」みたいなことがあれば、バサバサ落としていくんです。きっと、私より優秀な人もそれで落とされて、私が受かったんでしょうから、あんまり文句は言えないんですけど。
テリー いやいや(笑)。
野口 でも、そうすると最後は優秀かどうかより、いろいろな考え方や人種の集まりの中で潰れないかとか、そういう観点で選ばれるのかもしれないですね。
テリー タフで打たれ強い。
野口 大事ですね。なおかつ若干、鈍感なぐらいのほうがいいんじゃないかという。
テリー それこそアメリカ人やロシア人もいる中でね。
野口 鈍感じゃないとやってられないですよね。その一方では協調性も大事で。
テリー やっぱり協調性がないと、あんな狭いところで暮らせないですよね。
野口 宇宙船って、バスタブに大人が3人並んで、「もっとそっちへ行け」とか言いながら、肩寄せ合って2日間過ごすようなことなんですよ。
テリー うわぁ、ヤダなぁ。
野口 そういう不便さを共有できる力がないとツラいと思います。