ジュテがガンになったことは、ジュテのことを知っている知人にはお知らせした。
マンションに住んでいた時から親しくしているCさんは、ペット禁止なのに我が家がジュテを飼う前から猫を飼っていた。いつの間にか居ついてしまった猫だった。
飼い方がわからないので、ご飯のことからトイレのことまで親切に教えてくれたのもCさん。ウチは3階、Cさんの部屋は1階で、ドアを開けっ放しにしているため、ジュテが階段を降りてCさん宅に行き、Cさんの猫と遊んでもらったこともしばしばだった。
「ジュテが…」
Cさんも言葉を失っていた。
「どうにか助からないんですか」
「先生は、緩和ケアをやっていきましょう、と。これ以上、体重が減らないように、ご飯を食べさせたり、苦しそうだったら、病院に連れて行くぐらいしか…」
Cさんには旅行中、1週間ほどジュテを預かってもらったことがある。ジュテはよそに言ってもやはりいい猫(こ)で、Cさんの猫と仲良くし、聞き分けよく大人しかったという。借りてきた猫のようだったのである。
ところが、帰宅して引き取りに行ったら、飼い主という味方がいることで強気になり、相手をいきなり「シャー」と威嚇したのだ。その様子を見て我々は笑ったが、ジュテなりに寂しい思いで過ごしたことを理解することができた。
ジュテをかわいがってくれたCさんにとっても、病気はやはりショックな出来事だったようだ。
旅行に関しては、仕事で知り合ったRさんに預かってもらった際の、こんなエピソードもある。旅行から戻って、その足でジュテを引き取りに行った時のこと。聞くと、ジュテは本当に大人しくしていて、姿が見えないと思ったら、ベッドの下で静かに寝ていることが多かったという。
「トイレを済ますと、ジュテは『終わったよ』と教えにくるの。賢い猫だと思ったわ」
ところが、引き取ってタクシーで帰っている時、抱えていたキャリーバッグから「?」という臭いとともに、膝のあたりが生暖かくなったのだ。
気が付いた時には、ジュテはすっきりした後だった。マンションに着くと、大慌てで自宅から濡れティッシュや除菌スプレーなどを抱え込んで戻り、シートや床を掃除し、運転手に多めに料金を渡して、平謝りするしかなかった。
なぜ20~30分程度、トイレを我慢してくれなかったのか。
「おそらくジュテの無言の抵抗ね。また、僕を一人ぼっちにさせて『悪さしてやるぞ』という」
と、ゆっちゃん。
「Cさんの時も、実はこっちのことも怒っていたのかもしれないな」
「ジュテは意志がある猫だから。言いたいことは言う、ということだったのかもしれない」
Rさんにも、ジュテがもう助からないかもしれないと教えると、「あの猫がガン…」とやはり絶句してしまった。
(峯田淳/コラムニスト)