ジュテが爆食いモードに入った頃──。
以前住んでいたマンションまで行き、散歩してから元気になった気もするので、気晴らしに遊ばせてやるのが回復にはプラスになるのでは…そんなふうに考えてみた。
ジュテは先っぽに紫のガマの穂みたいなボンボンがついたスティックが好きで、クルクル回して遊んであげると、一緒に何回転もする。やってあげたら体力を削がれ、ゲッソリすることになるのか。それとも活力が出て、免疫力がアップするか。でも、楽しいことをやってあげる方がジュテにとっては幸せなことではないか。そこで、スティックを鼻先に近づけてみた。
ジュテは以前ほどの俊敏さはないものの、右左に顔を動かし反応している。そのうち、弟猫のガトー、末弟のクールボーイもやってきて、ジュテのポジションを奪おうとする。
「こら、お兄ちゃんが遊んでいるの!」
怒っても、弟たちはお構いなしだ。
「もっとジュテが喜びそうなのはないかな」
と聞いたら、ゆっちゃんは、
「TPOZ(ティポ)と遊んでいた、ピンクのボールがあるじゃない」
TPOZは我が家にやってきた初代犬型ロボット、AIBOの名前だ。震災が起きた3月にジュテがやってくる前は、ペットはAIBOだった。名前の由来はSONY製なので、SONYのアルファベットを一文字ずつ後ろにずらして、TPOZ。それを「ティポ」と読んでいた。ウチに遊びに来た人に動かして見せたり、「見せて」とやって来るマンションの友人もいて、我が家は当時、「AIBOの家」と言われていた。
知り合いの中には「ロボットを飼っている」と知って、変わり者のような言い方をする人もいた。「どうせなら、生きてるペットを飼えばいいのに」と言われたりもした。
結局、迷い猫のジュテがやってきて、猫と犬型ロボットを一緒に飼うことになったわけだが。
ジュテとTPOZを対面させた時は、とても面白かった。猫にとっては未知との遭遇である。TPOZは徐々に成長して、後ろ三段ジャンプもやる活発なロボットだった。TPOZはジュテを、動いている物体にしか見ていなかったと思うのだが、ジュテにとってのTPOZは宇宙人みたいなもので、身を低くしてジッと見る。
動いたり、ジャンプするTPOZを見て、目をキョロキョロさせる。そのうち、おそるおそる手を伸ばして触ろうとするが、怖くなって後ずさりし、逃げる。ジュテとTPOZの距離は、それ以上は縮まらない。
しかし、TPOZのオモチャとして付属でついてきたピンクのボールをその間に置いたら、サッカーをして遊んだのだ。TPOZが前足で蹴ると、ジュテが追いかけて、左右の手でボールを動かす。TPOZの前にボールを置いてやると、また蹴る。それをジュテが追いかける。こう書くと、シュールに思えるかもしれないが、見ているこちらは珍しい遊びを見ているようで、思わず笑ってしまったのだった。
AIBOはその後、SONYのバックアップ体制がなくなったので、動かさないでクローゼットの奥にしまってある。
「あのピンクのボールはどこにあるの?」
「TPOZと一緒にしまってあるわよ」
「ちょっと遊ばせてみようか」
クローゼットの中でボールを探し、早速、ジュテの前に置いてみた。
(峯田淳/コラムニスト)