これに対して、野口氏は再反論する。
「漫画に出てくる松井英介氏は、実際にその類いのことを主張しているようですが、この放射性微粒子説は間違っています。まず微粒子の大きさや、放射能についての言及がありません」
雁屋氏が福島を訪れたのは昨年で、事故の約2年後である。
同年3月14日、第一原発の20キロ圏内の空気中放射性物質濃度は日本原子力研究開発機構により測定され、文科省HPで公表されている。そのデータによれば、1立方メートル当たり1ベクレルの放射性微粒子でさえ、空気中に存在しない計算になる。
「実際は空気中の粉塵や土壌の粘土質成分に付着しており、純度1%もないと思います。2年たった純度100%の放射性セシウムの大きさは直径0.6マイクロメートル。人間の体は確かに放射性物質を吸収しますが、排出もする。その程度の微粒子が鼻腔内に付着しても、鼻汁などで数日以内に出てしまうでしょう。血管が切れるはずはなく、血小板も減っていないので、出血が続くこともありません」(野口氏)
鼻血の証言者、前双葉町長の井戸川氏は12年11月に汚染土壌の中間貯蔵施設についての会議に欠席し、町議会から不信任とされ、13年に町長を辞職している。
作品中では登場人物が、
「井戸川さんが邪魔な勢力があるんや‥‥」
とつぶやき、原発推進派からの陰謀があったかのように描かれているが、山本氏が語る。
「井戸川氏を擁護する福島県民もいないわけではありませんが、県民の約95%は福島にとどまったわけで、彼の起こした一連の騒動を『そこまでやるか』と見ていた県民は多かったような気がします」
その後、双葉町では町長選が行われた。井戸川氏は出馬しなかったが、作品中でその理由を被ばくによる倦怠感が原因だと説明している。ちなみに、井戸川氏は半年後の参院選にみどりの風から元気に出馬。街頭演説では「政府と東電は震災の8日前に津波が来ることを知っていて発表を止めた」と、トンデモ発言を力説している。
そしてまた、埼玉県にある自宅の応接室で井戸川氏は、こんなことを言うのだ。
「今の福島に住んではいけないと言いたい」
当の井戸川氏に取材を申し込んだが、締め切りまでに返事は来なかった。
現在でも200万人弱が福島県に住んでいるが、最新号では「人の住む土地ではない」という発言が計4回も繰り返されている。その根拠となるのが、福島大学行政政策学類の荒木田岳准教授による、「除染をしても汚染は取れない」という発言である。
荒木田氏は、町中にある側溝のカットを背景に、こう続けるのだ。
「汚染物質が山などから流れこんで来て、すぐに数値が戻るんです」
こんなことがありうるのか。野口氏が語る。
「本宮市の町中で除染して、元に戻ったなんてことは1つもありません。山間部に関しては、山の斜面を雨水と一緒に流れてきて戻るということはあります」
「美味しんぼ」の「福島の真実」編においては、福島県の一部地域で起こっていることを、全土で起こっているかのように表現している部分が多々ある。
県内に土地を買ったという荒木田氏が、立ち並ぶ民家を遠目にした河川敷を背景にして語る、この発言も象徴的である。
「(購入地の)すぐ下の河原は(土壌)1キログラムあたり43万ベクレルでした」
こうして、あらゆる河原が高濃度に汚染し続けている印象を与えるのだ。
実は、この「43万ベクレル」というデータは、過去、野口氏がある番組で公表したデータと“偶然”一致しているという。