糾弾派と擁護派が喧々諤々の主張を繰り広げ、大騒動に発展した「美味しんぼ」の鼻血表現。全国1000人に緊急アンケートを実施、語ることさえためらう、福島のタブーに対する意見を集めた。そこで浮き彫りになったのは、放射能情報への不信と変わらぬ福島への偏見だった。
福島第一原発を取材した主人公の山岡士郎が、その直後に鼻血を出すという描写が問題となった人気グルメ漫画「美味しんぼ」。
作品を掲載するビッグコミックスピリッツ(小学館)5月12日発売号では、双葉町の前町長、井戸川克隆氏が鼻血の原因を放射性物質と断定。福島大学の荒木田岳准教授は「福島には住めない」と証言している。
福島への差別的な表現に、編集部へ抗議が殺到する騒動になったが、13日、福島テレビは作品による実害をこう報じた。
「『美味しんぼ』問題 県内温泉旅館などで団体旅行キャンセルも」
「美味しんぼ」の表現を気にした保護者の反対で、県外の学校の団体客数百名がキャンセルしたというのだ。
一方、5月19日発売号の「福島の真実」編最終回では、主人公の父親の海原雄山が「住めない」発言を振り返りながら、
「だが千差万別の事情で福島を離れられない人も大勢いる」
と、大逃げをかましているのだ。同号では11人の識者の意見、福島県などの抗議を掲載し、編集長の村山広氏が「編集部の見解」として謝罪をしながらも、
〈「少数の声だから」「(放射能との)因果関係がないから」「他人を不安させるのはよくないから」といって、取材対象者の声を取り上げないのは誤りであるという(原作者の)雁屋哲氏の考え方は、世に問う意義があると編集責任者として考えました〉
としている。反論を寄稿した、放射線防護学を専門とする日本大学歯学部の野口邦和准教授が、最新号を読んだ感想を語る。
「基本的に原作者は県外に避難した人しか興味がなく、今も福島県内で暮らしている約200万人の人については眼中にないのだと感じています」
また、評論家の渡邉哲也氏はこう斬り捨てた。
「作品に対する、肯定と否定の両意見を掲載して、火消しを図っただけのものです。鼻血と放射能の関係を結び付けるなど、問題の本質に対する、納得のいく科学的な説明ができているとは思えません」
一連の騒動で、あらためて注目を集めた「福島」。本音で話すのがタブー化しつつあるこの地に対して、日本国民は今、どう思っているのか──全国1000人を対象に緊急アンケートを実施した。
まずは、〈「美味しんぼ」の差別表現を容認するか?〉という質問に対して、意外にも完全否定はわずか26%にとどまった。74%が容認した中で、最も多かった肯定意見は、「表現の自由」を理由としたものである。
「表現の自由は公共の福祉に反さないかぎり認められています。自由と責任は表裏一体。この漫画により悪い影響を受けた人への責任を取れるのでしょうか」(前出・渡邉氏)
また、前出・野口氏もこう批判する。
「表現の自由はもちろん守られるべきですが、だからといってデマでも何でも表現していいわけではなく、そこには節度というものが必要です。だいぶ誤解して、善意に作者を解釈している面があると思います」
原発の話題になると、必ず登場するのが「隠蔽」「陰謀」という言葉である。正しい科学的なデータを提出しても、効果的に広がらないのだ。今回も17%が「隠蔽」を理由に作品を応援している。
◆アサヒ芸能5/20発売(5/29号)より