野口氏が、原因を解説する。
「事故直後の政府対応があまりに稚拙でした。行政の信頼は失墜し、誰が情報を出しても常に『隠蔽』の疑いを持たれるようになったのは、こうした結果でしょう」
最新号では、山岡士郎と海原雄山が、
「真実を語るしかない」
「偽善は言えない」
と、決意を新たにしている。もちろん、放射性物質は福島だけではなく、広域に拡散したことが“真実”だ。アンケートでは「福島を差別していない」という意見が半数以上を占める結果となったのだが、野口氏はこう分析する。
「逆に言うと、半分の人が福島について否定的な見方をしているということです。食べ物、住居、海産物、旅行の問題とか、何らかの形で福島を遠ざけようという傾向はありますよね。今回のようなことが続き、福島=放射能という図式が出来上がりました。作品は福島を否定的に捉える人を、より増やすという役割を果たしました」
現在、放射能が原因で鼻血を出した福島県民が見当たらないことは、先週号で既報したとおりである。一方、将来の身体症状の有無ついては、14%が出ると考えていた。
「74%もの大多数は、慎重に検査を続けて判断してほしいと考えています。きわめて正常な捉え方かと思います」(野口氏)
福島県では、これまで県民健康調査を行っているが、子供を持つ母親が、遺伝的な影響を心配する声は根強いものがある。
「確かに動物実験では放射線の遺伝的影響が出ていますが、実験はいくらでも照射して研究できるわけです。人間ではそういう実験はできず、調べられるのは広島・長崎でのケースです。何十万人も調べているのに、いまだに遺伝的影響は確認されていません。動物実験で出て、人間に出ないとは言い切れないのですけど、長期間にわたり、大多数の人間を調べて、遺伝的影響が確認できていないのが科学的な事実です」(野口氏)
こうした健康問題で、常に持ち出されるのが、86年に起こったチェルノブイリの原発事故である。
「日本政府の対応は不十分でしたが、チェルノブイリでは完全に隠蔽されていました。何も対応できなかったので、2つの事故の放射線の影響を比べること自体がナンセンスです。日本では、牛乳などの基準値を1ケタ以上低く設定しています。甲状腺で見るとチェルノブイリ周辺の子供に比べ、福島の子供の線量は1~2ケタ低いのです」(野口氏)
山岡たちは、このことを「語るべき真実」だと思わないのだろうか。