すい臓がんを公表したユーチューバー「sunny journey~サニージャーニー~」が大炎上の末、病名公表からわずか10日後に、クラウドファンドを中止した。「サニージャーニー」は登録者数21万人、元保育士のこうへいと相棒のみずきが日本全国をキャンピングカーで回る、旅系ユーチューバーだ。
体調不良を訴えていたみずきが、32歳という若さでステージIVのすい臓がんと診断されたと、自身の番組で公表。「このまま何もしなければ、あと4カ月。標準治療を進めて、抗がん剤で延命していったとして、長くて2年」と明かしたのだった。
ところが、こうへいが「みずきの多額の治療費を捻出するため、クラウドファンドを準備している」と発表すると、同情ムードは一変、瞬く間に大炎上することに。
「みずきが浮かない顔をしていて。みなさんが“みずきを幸せにするためのお金です”と思って支援してくださっても、お金を使うときに“何か言われるかな?”“これをやったらぜいたくと言われてしまうかな?”と。そのお金を使う時に思う存分楽しめなくなる。みずきを幸せにする前提が崩れてしまったので、中止を決定しました。お騒がせしてすみませんでした」
これが11月21日に、こうへいがクラウドファンド中止を表明した際のコメントだ。武井壮ら有名人がこれに言及し、テレビのワイドショーでも取り上げられるなど、広く波及した支援活動はなぜ、炎上したのか。その理由は4つあると、医療ジャーナリストの那須優子氏は話す。
「最大の理由は、お金の使い道が不透明ということです。海外での臓器移植の渡航費用を集める『○○ちゃんを救う会』のほか、東北大学にはすい臓がん治療支援のクラウドファンドもあります。闘病のためにお金を募ること自体は、何も悪いことではありません。ですが『救う会』は非営利のNPO法人を立ち上げ、監査役、会計役を置いています。募金の目標金額を設定し、募金額が目標額を超えた場合の寄付先まで情報開示した上で寄付を募るのが筋です。監査役と会計役は渡航後の家族の生活費、家族が外食した際の領収書まで細かくチェックして支援者に収支報告し、承認を得る手続きを踏んでいます」
患者家族が煩雑な事務業務をこなすのは困難なため、NPO法人やクラウドファンド運営企業に依頼することになるという。那須氏が続けて説明する。
「第2の理由は、募金やクラウドファンドは主治医が会見に同伴、あるいは動画や書面で病状を説明し、治療法と治療費を説明することが大前提です。なぜ今回の動画には、主治医が登場しないのでしょうか。2人に寄せられた批判的なコメントの多くは『すい臓がんのステージIVであることを証明する診断書を見せてほしい』という、もっともな内容でした。『賛同しない人が批判するのは大きなお世話』という擁護もありますが、治療費を捻出する募金活動が続いてきたのは、これまでの『救う会』が適正な募金の使い道、情報開示をして、長い時間をかけて信用を得てきたからです。2人が疑惑を招くようなことがあった場合、今後、同様の募金活動が困難になる。難病に苦しむ子供が救えなくなってしまいます」
さらに、すい臓がんに効果的な、高額な治療は存在しないという。
「すい臓がんは進行した状態で見つかることが多く、治療法がないため、患者も家族も苦しんでいるんです。すい臓がんステージIVが事実であるなら食欲も落ちてくるため、クラウドファンドで集めたお金でみずきさんが美味しいものを食べ、綺麗な景色を見て、生きる気力と体力を養うことに罪悪感を抱く必要は全くありません。ところが、こうへいさんは『みずきを幸せにしたい』『みずきに楽しんでもらいたい』と、フワッとしたことしか言わない。今まで320万円もかかっていた先端医療、重粒子線治療も今年4月から、条件を満たせば健康保険が適用されるようになりました。高額な治療は自由診療のことなのか、あるいは自然療法の類いなのか…」(前出・那須氏)
こんな問題も浮上した。今回、YouTube上にアカウントと出資額を晒した人は今後、マルチ商法、カルト宗教に狙われるおそれがあるというのだ。これが4つ目の理由で、
「2人のチャンネル上に出資者のアカウントと寄付額が晒され『マルチ商法に騙されやすいカモ名簿』状態になっています。中には自分の家族が闘病中で悩んでいると、個人情報のコメントをしている人までいる。出資を募る口上に、マルチ商法や宗教の勧誘のような既視感を抱く人もいるのです。こうへいさんと主治医、監査役の3人で病状説明と治療法、治療費の内訳を説明する動画を作り、筋を通してクラウドファンドをやり直せばいいと思いますよ」
賛否はあれど、誰もが病状回復を願っているのだから。