かつては清純派アイドルとして人気だった、のりピーこと、酒井法子が、夫とともに薬物を所持していたとして逮捕されたのは、2009年8月8日だった。起訴された彼女が41日ぶりに保釈となり、警視庁湾岸署に姿を現したのが9月17日。
報道陣に対し、深々と頭を下げ、「このたびは本当に申し訳ございませんでした」と謝罪の言葉を口にした彼女がその足で向かったのは、都内にセットされた会見場。そこで酒井は総勢400人の報道陣を前に、涙ながらに反省のメモを読み上げ、大粒の涙を流すことになるのだが、この会見がその後、物議を醸すことになる。
事件を受け、彼女が出演中だった自動車会社と製薬会社は即刻、契約の打ち切りを発表。ビクターエンタテインメントから発売予定だったCD「酒井法子ゴールデン☆ベスト」も発売中止になる。ところが会見には「すでに契約を解除した」とする元所属事務所「サンミュージック」の相澤正久副社長(当時)と、元所属レコード会社「ビクターエンタテインメント」会長も同席していたのだ。
それだけでも不思議なのに、彼女は保釈時のパンツスーツから一転、黒いワンピースとジャケット姿でメイクを整えて登場したこともあって、報道陣からは大きなどよめきが起こった。私のメモには、
〈日々感じております後悔の念、取り返しのつかないことをしてしまった自分の弱さを戒め、反省をし、もう一度生まれ変わった気持ちで心を入れ替え、日々努力していきたいと思っております〉とある。酒井はその文章を涙ながらに読み上げるのだが、その姿は誰が見ても明らかに「女優の演技」だった。しかも「質問は一切NG」とあって、報道陣の大ブーイングの中、会見はわずか10分で強制終了してしまった。
当然のごとく、翌日のスポーツ紙やワイでショーでは、「なんで着替えてメイクを直す必要があるのか」「子供に謝罪しないのか」「反省しているのか」等々、批判が渦巻いた。
とはいえ、こんな「おいしいネタ」を出版界が指をくわえて眺めているはずもなく、翌10月には、彼女の生い立ちから、クスリに手を染めるまでが描かれた著書「碧いうさぎの涙 酒井法子のタブー」(晋遊舎)が緊急出版され、続いて双葉社からも「酒井法子 孤独なうさぎ」が発売されるなど「あやかり商戦」が活況を呈することになったのだった。
逮捕前には「裁判員制度」のPR映画にも出演していたのりピーだけに、いっそ厚労省が彼女を起用し薬物の恐ろしさを伝える広報映画を作ってみれば、と思ったものである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。