キャンプインの2月1日は「プロ野球の正月」と言われる。僕も自宅のCS放送で何球団ものキャンプ中継をチェック。一般のファンと同じように楽しませてもらっているが、現役の頃は2月1日を迎えるのが怖かった。
阪急の高知キャンプは猛練習で知られていた。それに加えて、上田利治監督が「今年は厳しくやるで」と新聞記者に向けて宣言するので、選手は戦々恐々やった。パ・リーグで優勝するためというより、日本シリーズで巨人に勝つためのキャンプ。
「どんなきつい練習をさせられるんやろか」と、プロで何年もやっているのに内心はビビっていた。
いざ始まれば、1クール目が終わった頃にペース配分がわかって楽になる。うまく手を抜くのもプロの技やから。でも、練習の最後の長距離走だけは慣れることがなかった。球場近くの筆山という山もランニングコースに含まれていて、長い長い階段を登り終わると足がパンパンになった。僕は短距離は速かったけど、長距離走は苦手でいつもビリやった。それでも最後まで必ず走りきった。ウエさんはとにかく走らすのが好きで、インターバル走などもよくやらされた。徹底的に下半身をいじめ抜き、長いシーズンを乗りきる土台を作らされた。
僕の場合は外野ノックでも下半身強化につなげた。若い頃は、毎日1時間半は受け続けた。あれだけ受けたら誰でもうまくなる。ダイヤモンドグラブ賞(現在のゴールデングラブ賞)を12回も受賞しているから名手と言われるが、最初はほんまにへたくそやった。コーチに教わりながら数をこなしていると、目で反応して自然と体が動くようになる。外野守備の極意は「ボールを追いかけるのではなく、ボールを待つ」こと。一直線に落下点に入ってキャッチすることが大事。ベテランになってからも自主的に若手の特守に加わった。どれだけ疲れても1日休んだら回復するから、休日前は必ず数多く受けた。
キャンプの朝はチーム全員で8時の散歩から始まる。鏡川沿いを歩いて体を起こしてから、朝食を食べて10時から練習開始。高知は南国と言われるけど、朝晩は冷えるから今年の巨人のアーリーワークのように早朝からいきなりバットを振ると、体を壊してしまう。だからこそ下半身を中心にじっくりと体を鍛えていくやり方やった。僕らの頃は阪急だけでなく、多くの球団が高知をキャンプ地としていた。今は暖かい宮崎や沖縄にキャンプ地を移して高知で1軍キャンプを行う球団はなくなっている。確かに暖かいところで体を動かすと、仕上がりは早い。でも、気をつけなアカンこともある。体の芯からできあがっていると錯覚してしまうんや。それが本州に戻っての寒い日のオープン戦でケガする原因になる。
僕らの時代はベテランになっても一人部屋ではなく二人部屋やった。「いろいろ教えてやってくれ」と頼まれて、松永浩美らと同部屋になった。今の若い子は一人部屋が当たり前だから、先輩と同部屋なんて考えられないと思う。でも、一人でゲームをやっているより、同じ部屋で先輩と過ごすことで野球人として学ぶことが多い。もちろん野球の話もするし、上手な遊び方も含めて、いろんなことを教えてもらえる。今振り返れば、きついことのほうが多かったけど、古きよき時代のキャンプやった。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。