シーズンオフは活躍した選手にとっては、授賞式に引っ張りだこのバラ色のオフとなる。両リーグのMVPのオリックスの山本由伸や、ヤクルトの村上宗隆は受賞ラッシュで大忙しの日々を過ごしている。村上なんて「村神様」で流行語大賞まで受賞した。僕も現役時代はゴールデン・グラブ賞やベストナインの表彰式に出るのを目標にやっていた。ゴールデン・グラブ賞は72年から12年連続でもらったけど、ベストナインはその間、75年と83年は選出されなかった。その年のオフはほんまに悔しかった。
チームのレギュラーを張っている以上、ベストナインに選ばれて当然となるような選手を目指さないといけない。両リーグの優勝チームのオリックス、ヤクルトはそれぞれ3人ずつが受賞した。僕も優勝した時のベストナインは格別の喜びがあった。巨人の坂本なんかは5年連続の受賞を逃し、チームがBクラスになった責任も感じていることと思う。僕ら世代の人間からすると、巨人からベストナインが一人も出ないなんて寂しすぎるよ。
阪急時代は強い巨人を日本シリーズで倒すために、きつい練習に耐えてきた。ONというスーパースターを抱えた巨人は、名実ともに球界の盟主やった。今は地上波での巨人戦中継がほとんどない時代になって、昔のような絶大な人気はなくなっている。人気だけでなく、今年のチームはAクラス入りする実力もなかった。もし、来年もBクラスに終わると、巨人の歴史上2度目の2年連続Bクラスになるという。考えてみると、それもすごい球団史と言えるデータで、腐っても巨人。毎年、優勝争いをすることが当たり前のチームやったということやから。
でも、巨人にとって初の暗黒時代を迎える可能性がある。ポスト坂本をはじめ、来年のレギュラーを狙える新しい選手が出てこない。3軍制にしているのに、評判が聞こえてくるのが、来季が高卒3年目の秋広ぐらい。その秋広にしても、ホップ、ステップ、ジャンプでいうと、まだホップもできていない段階。今年も1軍では1打席にしか立っていない。試合に出してもらっているうちに1軍の投手に慣れてくるものやけど、まだその段階にも来ていないということや。
そういう意味で、期待を大きく裏切ったのが松原と言える。昨年は135試合に出場して、規定打席到達の2割7分4厘。小さな体で12本塁打を放った。ところが、今年はわずか50試合の出場で打率1割1分3厘、0本塁打の情けない数字。ウォーカー、ポランコの外国人とのレギュラー争いどころではなかった。背番号は育成時代の「009」から「59」「31」と来て、今季は「9」に。だが、また来季から「59」に戻ることになってしまって。
一桁の背番号は球団の顔。また一からやり直しということや。このままやと重信と同じように1軍半の選手で終わってしまう。重信も入団してきた時は間違いなくレギュラーになれると思っていた。引っ張って強い打球も打てたのに、結果を欲しがり、当てにいくような打撃になってしまった。来季8年目ともなるとブレイクするイメージは湧かない。旬の時期を過ぎたら、なかなかレギュラー定着のチャンスは巡ってこないもの。巨人の今のメンバーなら、ドラフト1位の浅野を1年目から1軍で‥‥となってもおかしくない。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。