現役ただ一人の1000勝調教師である国枝栄調教師の悲願のダービー制覇に「黄色信号」が灯った。2月12日の共同通信杯(G3)で期待馬ダノンザタイガーが3着となり、賞金の加算に失敗。今後のダービーまでのローテーションが思うようにいかなくなったのだ。
「レース後の国枝師の落ち込みようといったらなかった。『馬の状態を見て、今後のことを考えます』と力なくコメントした時は、見ている方がつらくなったほどです。表情から察するに、川田(将雅)の乗り方が不満だったんだろうね」(美浦トレセン担当トラックマン)
レースでは、川田が直線の進路取りで右往左往した結果、3着になってしまった。川田によると、
「馬がまだ動ききれないため、そのつど道が狭くなってしまう」
とのことだが、パトロールビデオを見る限りでは、慌てずに真っすぐ走らせていれば突き抜けられただろう。国枝師が不満げなのも当然だ。
実は川田への不信感は昨年6月、ダノンザタイガーの新馬戦から持ち上がっていた。単勝1.4倍に推された同馬は後方からレースを進め、直線で猛烈に追い込んだものの、オンザブロッサム(11番人気)に半馬身差で敗れてしまったのだ。国枝師は楽に勝って秋に備えようと目論んでいただけに、これにはガックリ。仕方なく2カ月後に新潟・未勝利戦を使い、勝ってひとまずホッとはしていたが、最初からしっくりいっていなかったのだ。
とはいえ、ダノンと川田の結びつきは強固なため、名伯楽の国枝師といえども「ルメールに替えたい」というわけにはいかない。
「昨秋、川田と野田順弘オーナーが話し合い、今後はダノンの有力馬には優先的に川田が乗ることになった。それまではダミアン・レーンや三浦皇成が乗っていたりもしていたわけですが、10月のスプリンターズステークス以降は全て、川田が騎乗した。しかし、今後は厄介なことが待ち受けています。川田にはダノンザタイガーの他にも、きさらぎ賞を勝ったフリームファクシや、アイビーステークスを勝ったチャンスザローゼスといったお手馬がいますからね。はたしてどうするのか」(前出・美浦トレセン担当トラックマン)
国枝師は、川田がダノンザタイガー以外の馬に騎乗してくれることを願っているかもしれない。
(兜志郎/競馬ライター)