選手のためを思ってのことやけど、当事者の気持ちはどうなんやろ。昨年オフに第1回目が行われた現役ドラフト。楽天・オコエが巨人に移籍するなど、事前に定められたルール通り12球団全てで加入、流出があった。選手会の要望をもとに作られた制度で、飼い殺しを防ぎたいという意味合いはわかる。でも、ちょっと残酷な気がする。
僕が引っかかるのは、各球団が最低2名のリストを提出すること。基本的には非公表で同ドラフトに関わるフロントも、対象選手を秘密にしないといけない。でも、いずれは誰が放出リストに載っていたかはチーム内外で情報が回ってくる。放出リストに載せられたことがわかったら、ショックやと思う。簡単に言えば、必要とされていないということやから。
初の試みとなった今回は各球団の指名が1人だけで終わった。ある意味、移籍する選手のほうが気分的に救われたんとちがうかな。求められて出て行くわけやから。可哀想なのは放出リストに載りながら、他球団から指名されなかった選手のほう。そのままチームに残り、位置づけとしては最低のところからのスタートとなる。
何でもやってみなわからんこともあるし、2回目以降はよりよいルールを考えていけばいい。僕は対象選手は挙手制にしたほうがいいと思う。出場機会が増えるならトレードに出してほしいと希望する選手は、どの球団にもおる。今回は基本的に年俸5000万円未満の選手が対象やった。確かに年俸の設定はあったほうがいい。FAのように金持ちを救済する制度やないからね。年数、出場試合なども、細かい条件を設定して、今のチームで稼げていない選手に手を挙げさせればいいんちゃうかな。
今後、現役ドラフトがよりよい制度に発展していくためには、1期生の活躍ぶりも大事になると思う。球団と選手がウインウインの関係になれるかどうか。
その中で、今回の一番の注目は、名前のあるオコエやろね。巨人の入団会見ではヒゲも剃り落として心機一転を誓っていたけど、ライバルの多い巨人での成功は生半可な道ではない。
オコエは2015年のドラフト1位で関東一高から楽天に入団。夏の甲子園での活躍は僕も印象深かった。外野守備はセンス抜群で、足と守りは間違いなくプロで通用すると思った。それが体だけ大きくなって1軍にも定着できていない。野球に集中できないとか、何か根本的な理由があるのかもしれない。高卒野手で1軍でレギュラーになるような選手は3年以内に光るものを見せて、だいたい4、5年目で定位置を奪う。オコエは今年が8年目。楽天では見限られても仕方がない。巨人でのチャンスは1年目しかないと思ったほうがいい。春のキャンプから死にもの狂いでアピールできるかどうかや。
個人的には阪神から西武に移籍が決まった陽川尚将に注目している。13年のドラフト3位で入団した31歳。内、外野をたらい回しにされたこともあって、能力を開花しきれなかった。パンチ力のある打撃は試合経験さえ積めば、20本塁打以上を打つ力はある。
それにしても、次から次へと新しい制度ができる。給料は増える一方で、僕みたいにひとつの球団で終える選手は少なくなった。それがいいのか悪いのか、難しいところやな。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。