歌手であり俳優であり、創作アーティストであり音楽クリエイターでもある香取慎吾。ジャニーズ事務所を退所した17年からは、活動の場をさらに広げた。SMAP時代のダンス&ボーカリストだけではなく、絵画や造形物の創作家としても成功を収め、念願の世界進出を果たしている。
グループ時代から香取は、さまざまな顔を使い分けていた。それはSMAPの中でも抜きん出ていて、メンバーでは最も多く、別名義によるシングルCDをリリースした。
ホームラン級の国民的キャラは「慎吾ママ」。中居正広とレギュラー出演していたバラエティー番組「サタ★スマ」(フジテレビ系)から誕生した、自身初の女装キャラだ。00年8月にファーストCD「慎吾ママのおはロック」をリリースすると、元ピチカート・ファイヴの小西康陽が作詞・作曲した同楽曲の冒頭で発する「おっはー!」が爆ウケ。ミリオンヒットとなり、同年の新語・流行語大賞の年間大賞を受賞した。
日本中から愛されたママのおよそ4年後には、忍者になった。藤子不二雄(A)の漫画「忍者ハットリくん」をVFXで実写化した「NIN×NIN 忍者ハットリくん THE MOVIE」(04年)で、服部カンゾウ役の忍者に扮したのだ。映画公開に先駆けて、ハットリくん名義で主題歌「Hattori3(参上)」をリリース。ジャパニーズ・ヒップホップの第一人者である近田春夫が音楽を担当した。
09年には、国民的警察官になった。漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の初連ドラ化で、主役の両津勘吉を熱演。両さん名義で、主題歌「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の歌唱も担当した。音楽は「慎吾ママ」と同じく、小西が担っている。CD購入者を対象にしたイベントを東京・両国国技館で開き、1万人を集めた。
その2年後には「こちら葛飾区亀有公園前派出所 THE MOVIE 勝どき橋を封鎖せよ!」というタイトルで映画化。両さんは、昭和の名曲「三百六十五歩のマーチ」をカバーして、ソングブックも制作した。映画化は漫画の連載40周年を祝したものだったが、この5年後に連載が終了。偶然にも同年末、SMAPが解散した。
日本を代表する漫画とトップアイドルグループが、くしくも同時にその幕を下ろす。平成の終焉を象徴する、ひとつのエポックだったかもしれない。
(北村ともこ)