1900年代初頭に、「ちびくろサンボ」という世界的人気を得た童話絵本があった。著者はスコットランド人のヘレン・バンナーマン。元軍医の夫とインドに滞在中、彼女が自分の子供たちのために書いた手作りの絵本がのちに公刊され、全世界に広がったものだ。
ところが多くの海賊版が横行すると、インドとアフリカが混在するようになり、アメリカでの黒人による公民権運動の高まりを受けて、絵本に対して黒人差別だとの批判が殺到。日本でも1988年には出版社による自主的な絶版、さらに書店回収騒動が勃発した。
一時は黒人のイメージを向上させるとして推薦図書に指定された名著は、子供たちの前から姿を消すことになったのである。
そんな騒動から約30年の時を経た2017年11月25日。自民党の衆院議員が同僚議員の政経セミナーで、大問題発言をブチかます。慌てて撤回はしたものの、大きく波紋を広げる騒動に発展した。
暴言の主は、安倍第二次改造内閣で地方創生担当相だった山本幸三氏だ。福岡県北九州市内で開かれた自民党・三原朝彦衆院議員の会合に、来賓として出席。三原氏は国会議員らで作る「日本・アフリカ連合友好議員連盟」会長代行を務め、現地を視察するなど、長年アフリカの支援活動をしてきた。
そんな三原氏の活動に触れた山本氏は、持ち上げるつもりが、
「ついていけないのがアフリカ好きでありまして、なんであんな黒いのが好きなんだ、っていうのがある」
この人種差別的な物言いに、会場の空気は凍りつく。日本では当時、政府主導により、国連や世界銀行、アフリカ連合委員会と共同で、アフリカ開発をテーマとする国際会議TICAD(アフリカ開発会議)を開催。TICADの先駆的存在を自負していた安倍政権にとって、この山本発言は大きな痛手となる。野党からは安倍氏に対する任命責任、政治責任追及の声が上がることになった。
山本氏は非難の声に対し、次のような弁明を展開する。
「昔、アフリカを表現する言葉として使われた『黒い大陸』ということが念頭にあり、とっさに出た。人種差別の観点は全くない。表現が誤解を招くということであれば、撤回したい」
確かに「黒い大陸」がアフリカを指す言葉なのは事実だ。だが「アフリカ大陸」を連想しながら「なんであんなに黒いのが好きなんだ」との発言には、そこに人種差別的な意識があったと捉えられるのは当然のこと。TICAD関係者の間でも、物議を醸すことになった。
(山川敦司)