サンダルで叩く、胸ぐらをつかんで引き寄せる、アルコールスプレーを顔に噴射する、太腿を蹴り飛ばす、顔に暴行を加えてケガをさせる、暴言を浴びせるーー。
これは名古屋刑務所で刑務官22人が受刑者3人に繰り返していた、やりたい放題の所業である。暴行の数々は21年11月から22年8月の長期にわたって行われたが、このほど名古屋刑務所は22人の刑務官のうち悪質性が高い13人を特別公務員暴行陵虐などの容疑で、名古屋地検に書類送検する方針を固めたという。
「まだ懲りてなかったのか」
そう驚きを口にしたのは、かつて名古屋刑務所に服役していた元受刑者X氏である。実は名古屋刑務所には「前科」があったからだ。
2001年、刑務官が消防用ホースで受刑者の肛門に放水し、直腸裂傷などによる細菌性ショックで死亡させている。翌2002年には、革手錠で腹を締め付けられた受刑者2人が死傷する事件が起きた。事件に関与し、特別公務員暴行陵虐致死罪などで起訴された刑務官ら8人のうち、7人が有罪となっている。
いったいなぜ刑務官は、こうした行為に及ぶのか。先のX氏が、刑務所内の事情を明かす。
「刑務所は短期と長期、そしてA級とB級が組み合わさっています。短期は懲役10年以下で、長期はそれ以上。A級は初犯やカタギの者が入り、B級には累犯や暴力団員が入るようになっています。岡山や千葉は長期のAで、長期のBは徳島、岐阜、宮城、旭川などがあります。名古屋は短期B級として認識されていますね」
X氏によれば、刑務官の態度が比較的厳しいのはA級なのだという。B級はいわゆる「刑務所慣れ」をした受刑者が多く、刑務官の生態をよく知っているからだ。それなのに、B級の名古屋で暴行は繰り返された。これはどういうことなのか。別の元受刑者Z氏が言う。
「刑務所長は刑務官たちを指導しなければならないわけですが、その指導が甘かったんじゃないでしょうか。高校、大学を出て刑務官になれば、親ほどの年齢の受刑者がペコペコするわけですから、勘違いして威張り倒すヤツもいます。ナメられたらいけないと、先輩刑務官の指図で厳しく接する場合もあるようですね」
今回の暴行に加わった22人のうち、16人が20代から30代であり、しかも刑務官歴は3年未満だった。やはり刑務官への教育を徹底する必要があるだろう。