ではその時、麻原はどのようにして絞首刑台に吊るされることになるのか。死刑執行に携わった経験を持つ元刑務官の証言。
「かつては前日に執行の事実が伝えられていたが、それを聞いた死刑囚が直後に自ら命を絶ってしまった事件を機に、現在は当日まで本人に伝えられることはない。数人の屈強な刑務官が独房の前にやって来るのは朝の8時。刑務官は『外へ出ろ』と命じるだけだが、この瞬間に死刑囚は全てを察知することになる。多くの場合、恐怖のあまりブルブルと震え出して大小便を漏らしたり、『死にたくない』『助けてくれ』と絶叫して命ごいしたりと、静かだった独房は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄と化します」
ならば、詐病疑惑がささやかれる麻原死刑囚の場合はどうか。何人もの死刑囚を見送ったことのある元教誨師(死刑に立ち会う僧侶、牧師、神父など)はこう明かすのだ。
「精神病を装っていたある死刑囚は死刑執行を告げられるや、真顔をひきつらせながら『そうですか』と言って素に戻った。詐病だったんだね。ただ、落ち着いていたのは一瞬だけで、すぐにワケのわからないことをわめきながら、独房の奥に飛びのいて暴れだした。以後はまさに地獄絵。死刑囚は刑務官4人がかりで独房の外へ引っ張り出されると、ウーウーといううめき声を漏らしながら、薄暗い廊下をズルズルと引きずられていったよ」
麻原死刑囚も含め、その後、死刑囚はエレベーターに乗せられ、刑場のあるフロアで降ろされる。向かう先は「教誨室」と呼ばれる応接室で、死刑囚が最後の祈りを行う「前室」を経て、死刑が行われる「執行室」へと続いている。この元教誨師が続ける。
「死刑囚は教誨室で拘置所の所長から死刑執行を正式に伝えられ、簡単な遺書や遺言を残すわずかな時間を与えられる。その後、前室で仏式、キリスト教式、無宗教式など希望に応じた祈りをささげたあと、最後のタバコと菓子を勧められるが、暴れたり自失状態になっている死刑囚については、この間の儀式が省略されることもある。実際、そういう死刑囚はかなりいたね」
そうして、今生の別れとなる絞首刑が執行される。死刑囚は前室で白装束に着替えさせられ、頭全体を覆う目隠し用の袋をかぶせられる。再び前出・元刑務官の証言。
「その後、ただちに執行室に運ばれ、断末魔の苦しみで暴れないよう、両手と両足を縛られたうえで首に縄をかけられ、執行ボタンが押される。この間、わずか十数秒。足元の踏み板が外されると、死刑囚は自然落下していく。吊るされている時間は15分から30分。口や目や肛門などから内容物が流れ出し、中には痙攣しながらダラダラと射精したり、落ちる瞬間に叫び声を上げたために舌をかみ切り、口から大量の血を噴き出して絶命する者もいます」
その後、立ち会いの医師による検死によって死亡確認が行われ、独房を出てから都合2時間にわたる罪の償いは完了するのだ。
独房の奇行教祖にも、迫り来る「その時」がやって来る‥‥。