「俺はヤッていない」。日本を震撼させた川崎の逃走男は、いまだに犯行の一部を否認している。そのせいか、無実を晴らすため脱獄するドラマ「プリズンブレイク」の主人公になぞらえる声がネット上に現れた。しかし、この男が行った所業を知れば、そんな声を上げることはできないはずだ。大メディアが報じない戦慄の集団暴行の一部始終を以下──。
「杉本か!」
神奈川県警泉署の40代警部補の声が、雑木林の中に響き渡る。わずか数メートル先で捜査員と対峙するのは、集団暴行などの疑いで1月6日に逮捕され、翌日に横浜地検川崎支部から逃走した杉本裕太容疑者(20)だった。
杉本容疑者が発見された横浜市泉区は川崎支部から約22キロ離れた場所だった。東海道新幹線の線路に近い公園脇の雑木林に身を隠していたのだ。
捜査関係者が緊迫の様子を振り返る。
「捜査員が杉本の名前を呼んでも返事はせず、青白い顔でジッと捜査員をにらみつけていました。ナイフなどの凶器は持っていませんでしたが、窮地に追い込まれても観念する様子はなく、捜査員が近づいた瞬間、すぐそばを流れる和泉川の浅瀬に飛び込んで、駆けだしたのです」
杉本容疑者は上流に向かって20メートルほど川の中を走っていく。だが、上流からは別の捜査員2名が迫っており、3人に挟み撃ちされる格好となった。杉本容疑者は、ここに至ってようやく観念した。
「腰までつかった真冬の身を切るような冷たい川の中で、寒さに震えながら、『もう逃げません。逃げませんから、ここから出してください』と、懇願するように何度も繰り返しつぶやいていました」(前出・捜査関係者)
4000人もの捜査員を動員し、約47時間に及んだ脱走劇の結末は、逃走犯の何とも情けない姿での幕切れとなったのだ。
もちろん、これで一件落着というわけにはいかない。杉本容疑者が逃れようとした罪について、多くのメディアは詳細を報じていない。強盗と集団暴行という容疑であり、被害者感情を考慮するあまり、報道が控えられている。そのせいか、杉本容疑者の友人らを中心にネット上ではヒーロー視するようなバカまで現れた。断じて逃走男はヒーローなどではない。犯した罪は、まさに鬼畜にも劣らないほど非道なものなのだから‥‥。
社会部記者が事件について説明する。
「元日の深夜、杉本は遊び仲間で、塗装工の宇都宮卓容疑者(20)とレンタカーを借りると、川崎市麻生区を車で流していました。足がつきやすいレンタカーを使用している点から言っても、最初から罪を犯すつもりはなかったのかもしれません。しかし、麻生区は県下有数の高級住宅地として知られており、そこで2人は悪だくみを思いついたのです。面識もない帰宅途中のOL(21)を見つけると、いきなり女性の頭を殴って無理やり車内に連れ込んだのです」
泣き叫ぶ女性の声は、2人の鬼畜と化した男には届くことはなかった。走り去る車の中で、女性に暴力と脅迫で恐怖を植え付けて支配していく。そして、被害者が脅える様子に興奮した宇都宮容疑者は女性の体を押さえつけ、欲望のままに貪ったのだ。
「宇都宮は杉本と同じ川崎の出身ですが、隣町の1学年上の先輩に当たり、中学卒業後に知り合ったようです。杉本のワルさばかりが報じられていましたが、宇都宮もケンカっ早い不良タイプで、腕に大きなタトゥーを彫っています。『殺す』とか『刺すぞ』が、宇都宮の口癖だったそうです。そうした2人の間柄もあり、杉本が逮捕後に供述していたように、犯行を主導したのは宇都宮なのかもしれません」(前出・社会部記者)
しかし、杉本容疑者は先輩の凶行を止めるどころか、そこに相乗りしている。
「杉本は被害者の体よりも所持品に興味があったようで、バッグから財布を抜き取りましたが、額が少なすぎて満足できなかった。コンビニに連れて行き、ATMで現金15万円を下ろさせて金を奪ったのです。コンビニでは、女性が従業員に助けを求めないように脅し、見張っていた。その様子が全て防犯カメラに収められていたのです」(前出・社会部記者)
連れ回された女性が解放されたのは、日も昇り始めた1月2日の午前7時過ぎだった。約7時間にわたって得体の知れない男たちに監禁され、殺されることも脳裏によぎったかもしれない。心に一生消えない傷を残したにもかかわらず、罪の意識がないのか、翌日の宇都宮容疑者はフェイスブックに、こう書き込んだ。
〈暇人LINE(に連絡)して〉
そして、杉本容疑者は逃走して、被害者を再び恐怖のドン底へと追いやった。
この“極悪コンビ”が逮捕されていなければ、今でも犯行を重ねていたことだろう。
◆アサヒ芸能1/21発売(1/30号)より