バイクでJR呉線の安芸長浜駅に到着した平尾受刑者は、電車で広島に向かった。同駅を訪れると、無人駅ではあるものの、駅舎は立派で風雨をしのげる造り。電車の本数は少ないが、しばらく心を落ち着けていたのではないだろうか。
30日深夜2時頃、広島駅近くにあるカープロードの弁当店のゴミ箱をあさる、平尾受刑者と見られる男の目撃談があった。これが正しければ、平尾受刑者は29日中に広島駅に到着していたことになる。
その6時間後に平尾受刑者がいたのは、すぐ近くのネットカフェ。ここに3時間ほど滞在していた。
「ネットカフェに入った理由は情報収集。ケータイを持っていないためです。あとは、逃走の協力者と連絡を取ろうとしたかもしれない。かつて福岡で事件を起こした時にも、共犯者がいましたから」(小川氏)
ところが、シャワールーム利用時に、女性店員が平尾受刑者に似ていると気づき、上司に報告。退店後に110番通報が入った。
ちなみに、同店のシャワールームは広く、無料で利用できるが、バスタオル(300円)などを別途購入しなければならず、窃盗男には負担が大きかったはずだ。だが、鏡は大きく、ひげも剃りやすい。逮捕時、眉毛が整えられ、不精ひげも生えていなかったが、この場所でひとまず生まれ変わったのだろう。退店した平尾受刑者は、比較的大きな通りを悠然と歩き出す。しかし、脱獄犯らしからぬ余裕もつかの間、ネットカフェからの通報で、警戒していた警官についに見つかってしまう。
急いで脇道へそれ、思わずサンダルも脱げたまますっ飛んでいく。だが、付近の小学校の塀を飛び越えて、敷地内に逃げようとしたところを引きずり降ろされた。通報からわずか10分ほどの出来事だった。
実際に塀を登ろうとしてみたが、足をかける部分こそあるものの、コケが生えていて滑りやすい。警官に追われていなくとも、メタボの中年記者には厳しかった。気づけば、若いカップルの女性も登ろうとしたり、家族連れが「ここだよ」と指さす光景も。すっかりGWの観光名所の一つになっているようだった。
足取りを実際に追うと、平尾受刑者の運動能力の高さがよくわかった。子供の頃から逃げ足が速く、手癖も悪かったことから「ルパン」というアダ名もついたという。現実世界で、怪盗の逃げ切り勝ちとはならなかったが‥‥。