事件が起きたのは3月23日午前3時半頃。東京・品川区中延の寿司店で、営業時間後に作業をしていた店主が、勝手口から入ってきた51歳の派遣社員にナタで襲撃された。頭蓋骨を骨折し、「全治6カ月の重傷」と報じられた御年81歳の大将だが、なんとすでに営業を再開していたのである。
まだ左頬に生々しい刃の傷跡を残す、「健寿司」の佐藤征六さんが事件当日を振り返る。
「急に裏から入ってきてさ。(店に)『財布を落としてないか』とか、訳わかんないこと言うんだよ。(警察に)『電話するぞ』って言ったら、やられたんだよな」
犯人は何も盗らずに逃走したが、店主はみずから110番通報。犯人は事件3日前にも近隣の青果店に空き巣で侵入していたことで逮捕され、関連性を調べられたあと、寿司店での強盗殺人未遂でも逮捕された。
寿司店の常連客は、店主が大事に至らなかったことにホッと胸をなでおろす。
「征六さんは気さくな人で、毎日夕方から近所の顔見知りたちが集ってきては憩いの場となっているお店です。『あわび食うか?』『トコブシじゃねえか』『うるせ~よ』なんて客との軽妙なやり取りも、居心地をよくしてくれる。しばらく休業で、このまま閉店してしまったらと心配したけど、再開してくれて何よりです」
わずか1カ月余りでの現場復帰だ。体調は大丈夫なのだろうか。
「刃物で切られたわけだけど、鈍器じゃなかったから、CT撮ったら(脳の)膜までは達してなかったんだよ。右中指も切られちゃってさ、最初は動かなかったけど、もう大丈夫だ」(征六さん)
とはいえ、再び現場の店に戻ることに周囲の反対はなかったのだろうか。
「しないよ。反対したって聞かないから。仕事が嫌いじゃないからさ、辞めたらかえって体壊しちゃうよ。うちにいたってしょうがないからね」(征六さん)
犯人に言いたいことがないか尋ねると、
「何もねえな。どうでもいいよ」
と笑い飛ばし、客の注文にこたえて寿司を握るのだった。再開後は閉店時間を22時に早めたというが、客が引かないこの日、元気に深夜まで営業していた。