8月5日に再開したJリーグ。例年、この時期は下位に低迷するチームが残留するために補強に動く。ところが優勝を争っているチームは、さらに補強して独走してやろうという動きは少ない。それがJリーグの特徴なのかもしれない。
では今夏はどうか。中断前に首位に立っていたヴィッセル神戸はイニエスタが退団し、さらにステファン・ムゴシャ、セルジ・サンペールも退団。例年なら夏に大型補強を仕掛けてきたが今夏はおとなしく、大きな補強は現段階でない。
2位だった横浜F・マリノスも元韓国代表のMFナム・テヒを獲得したが、パリ五輪世代のボランチ、藤田譲瑠チマがシント=トロイデン(ベルギー)に移籍し、大きな戦力アップにはなっていない。
4位の浦和レッズはバルセロナBから安部裕葵、アンタルヤスポル(トルコ)から中島翔哉を補強して注目されたが、この2シーズン故障のため選手登録されていなかった安部のデビューは9月にずれ込み時間がかかりそうだ。
そんな中、3位だった名古屋グランパスはどこよりも早く動いた。6月にユトレヒト(オランダ)からFW前田直輝の復帰を発表。さらにコンサドーレ札幌から高さと強さを兼ね備えたFW中島大嘉をレンタルで獲得。7月に入るとJ2の藤枝MYFCからMF久保藤次郎を獲得。上位2チームに比べ得点力で劣っていただけに、攻撃陣の補強を仕掛けた。
ところが8月1日にチームのエースともいえるマテウス・カストロのサウジアラビアリーグ、アル・タアーウン移籍を発表。普通ならこれで夏の補強は終わり、シーズン終了後に「マテウスの抜けた穴が痛かった」ということを言い訳にするのだが、今季の名古屋はすぐに動いた。サンフレッチェ広島の背番号10番、日本代表経験のある森島司を移籍金2億円で獲得した。
ここまで次から次に手を打って補強するのは、本気で逆転優勝を狙っている証拠だ。
再開して、いきなりライバルの3チームが勝ち点を失う中、名古屋は新潟相手に確実に勝ち点3を奪い、首位・神戸に勝ち点差2と迫っている。
神戸や横浜FMのような派手さはないが、手堅い安定したサッカーで大崩れはしない。指揮を執る長谷川健太監督は、Jの中でも6つのタイトルを獲得した名将。自信を持って選手をピッチに送り出し、勝った試合では選手を称え、負けた試合は監督の責任と答える。J1で500試合以上を指揮し、200勝以上を達成している経験豊富な監督がベンチにいることは、選手に安心感を与える。
逆転優勝に向けて最初のヤマとなるのが、これからの3連戦(鹿島アントラーズ、浦和、セレッソ大阪)。相手は4位、5位、6位とクセ者ばかりだ。ここを2勝1分けで乗り切れれば首位が見えてくる。
カギを握るのは長谷川監督の選手起用法。この暑さの中、選手のコンディションを整え、誰を先発させて誰をベンチスタートさせるか。そして5人交代のタイミングも大事になってくる。長谷川監督がどんな采配を見せるのか。そこに注目したい。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。