2月18日に行われたJリーグ開幕戦のサンフレッチェ広島vsコンサドーレ札幌戦。この後半29分に“世紀の誤審”は起こった。広島の川村拓夢(23)のヘディングシュートは、ゴールラインを完全に越えているように見えたが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)検証の結果、ノーゴールと判定されたのだ。
当日の試合を撮影していた、スポーツカメラマンが語る。
「当日は雨が降っていて視界はあまりよくなかったのですが、それでも誰がどう見ても、ゴールラインを越えていましたよ。そのため、ノーゴールという判定に対して場内は騒然となり、当然、広島サポーターからは大ブーイングが沸き起こりました」
すぐに動画が拡散したこともあり、ネット上でも〈絶対に入っている〉〈納得いかない〉といった批判の声が殺到するなど、サッカーファンの間では、VARによる疑惑の判定について、大きな物議を醸すこととなったのだ。
一連の事態を重く見た日本サッカー協会は22日に急きょ、説明会を行い、
「本来なら審判は得点を認める事象であったと結論づけた。審判が今回、下した決断はあってはならない。おわびをして、信頼性のあるVARを目指さないといけない」
と、広島のシュートはゴールラインを割っていて、致命的な誤審であったことを公式に認めたのだ。
サッカージャーナリストの六川亨氏が解説する。
「サッカーはミスのスポーツです。そのため、86年のW杯メキシコ大会で起きたマラドーナの“神の手”ゴールなど、国内外のサッカー史を振り返っても、誤審に関するエピソードは枚挙に暇がありません。そこで『はっきりとした明確な間違い』をなくすため、Jリーグでは19年にVARが初めて採用されました」
しかし、VARは、決して万能ではないという。六川氏が解説を続ける。
「多くの人は、VARとGLT(ゴールライン・テクノロジー)を混同しているのだと思います。VARは人の目視による映像の確認を踏まえた上で、あくまでも最終的な判定は主審が行います。一方で、昨年開催されたW杯カタール大会でも採用されたGLTは、最新の映像解析技術を用いた判定となります。日本がスペインを相手に歴史的勝利を収めた一戦において、逆転弾の起点となった三笘薫選手の折り返しは、当初ゴールラインを割ったと判定されました。しかし、GLTによる検証の結果、わずか1.88ミリ、ボールはラインにかかっていたと判定され、ゴールが認められました。つまり、勝敗を左右するゴールかノーゴールかの判定に関して、先の広島vs札幌戦であったような誤審をなくすためには、最新の映像解析技術を駆使したGLTの導入が必要不可欠なのです」
世界的なスター選手が集結する英・プレミアリーグや独・ブンデスリーガなどでは、すでにGLTは導入済みだという。しかし、Jリーグでの導入は前途多難だという声も聞かれる。
「GLTの導入には、1スタジアムあたり10億円近くの費用がかかります。19年度のJリーグ1部の平均観客動員数は約2万人。一方で、海外のビッグクラブでは毎試合10万人以上の観客が集まります。世界的に見るとジリ貧リーグのJリーグでの導入は、資金的にそもそも不可能なのです」(Jリーグ関係者)
今回のような試合の勝敗を決める、致命的な誤審が減ることを願うばかりなのだが‥‥。