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新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「長州が消息を絶った日、マサ斎藤が出現!」

「ジャパンがこの世界で生きていくためには‥‥ジャンボなり、天龍なり、藤波なりをみんな倒さなきゃいけないから、まあ一生懸命頑張ります」

 1985年1月17日、徳山市民体育館でカート・ヘニングを撃破してPWF王座防衛に成功した長州力は、日本テレビの全日本プロレス生中継で、新日本プロレスの藤波辰巳(現・辰爾)の名前を口にした。

 プロレス界において、こうした発言が飛び出す場合には水面下で何らかの話が進んでいると考えていい。実際、この発言の9日前の1月8日夜、長州は極秘裏にアントニオ猪木と会っていたのである。

 事の発端は同日午後、新日本の杉田豊久渉外担当部長が東京・池尻のジャパン本社に大塚直樹代表取締役副会長を訪ねたことだ。

 杉田は「選手は契約の問題があると思いますが、新日本の営業が今、ガタガタなので営業の人間だけでも戻ってきてもらえないかと社長(猪木)と副社長(坂口征二)が言っています」と大塚に持ちかけた。

 同夜、長州は川崎市体育館で試合があり、大塚は控室で「試合後に1時間付き合ってくれる?」と長州を誘って行き先も告げずに車の助手席に乗せたが、長州は「青山(新日本=事務所が南青山にあったため、長州はこう呼ぶ)でしょ?」と言ったという。

 事務所では杉田、猪木、坂口が待っていて「営業だけでも戻れないか」という話が「選手、営業を含めて全員で新日本に戻ってもらいたい」に変わった。

 そして藤波の名前を口にした翌日の18日、全日本の尾道市公会堂での昼興行に出場した長州は試合後に大塚、ジャパン選手会長の永源遙と博多に移動。福岡全日空ホテルで坂口、藤波、杉田と会談を行い、改めて新日本に戻ることを要請された。

 ここから話は複雑になっていく。もともとは杉田-大塚のラインで始まった話だが、それとは別に猪木の秘書部長の倍賞鉄夫とジャパンの専務であると同時にグッズ販売やイベント出演のマネージメントをする長州の個人会社リキ・プロダクションを切り盛りする加藤一良の倍賞-加藤ラインが同時進行で動いていたのだ。倍賞と加藤は以前からプライベートで仲が良く、加藤は長州の側近。倍賞は加藤を通じて「ひとりで戻ってくるのなら1億円を出す」という条件で長州の一本釣りに出たという。

 別々のルートから同時に話を持ちかけられた長州は困惑したに違いない。

 そうした裏の動きとは別に表面上の動きは加速していく。2月2日放映のテレビ朝日「ワールド・プロレスリング」で古舘伊知郎アナウンサーが「長州の呼びかけに藤波が2月5日の両国国技館で返答する」と伝えたのは前号の通り。

 2月5日午後6時、両国国技館の記者クラブ室で山本小鉄取締役審判部長同席の上で記者会見を行った藤波は「長州の呼びかけに対し、やっとその時期が来たと確信しています。団体の枠を取り払って、プロレス界のために、ファンの夢に応えていくために‥‥やります!」と、テレビカメラに向かってガッツポーズ。山本も「今日でシリーズが終わりですから、明日から進めていきます」と語り、さらに坂口が「山本さんが言ったように、フロントとしてもバックアップします」とコメントした。

 同日、全日本は札幌中島体育センターでシリーズ最終戦。長州は谷津嘉章と組んでジャンボ鶴田&天龍源一郎相手にインターナショナル・タッグ王座の防衛戦に臨み、谷津が天龍のジャーマン・スープレックスに敗れて王座から転落した。

 勝った天龍は「カウント2じゃないのか?」と抗議する寺西勇をそっと制して、穏やかな笑みを浮かべる長州を見た時に「ああ、長州は新日本に帰るんだな」と直感したという。

 控室に戻ってきた長州は藤波の両国発言を聞かされると「ジャパンとしては受けて立つぞ! ただし、それは全日本との仲を崩してまで‥‥というものではない。考えなきゃいけないことがいっぱいあるが、俺がまず一歩前に出る」と、前向きなコメントを出した。

 11日後の2月16日、長州は河本英子さん(現夫人)との婚約を発表。公私ともに順風満帆に見えたが、水面下では新日本に戻るか、戻らないかで神経をすり減らしていた。

 そして2月20日、後楽園ホールにおける「エキサイト・シリーズ」開幕戦を長州が欠場。表向きは「発熱と神経性の下痢のため」と発表されたが、実際には午後5時過ぎに長州から「体調が悪くて出られない」と加藤に電話があったが、その後は消息を絶ち、誰も居所がわからなかったのだ。

 長州が消えた日、東京・中野サンプラザで猪木の誕生日を祝う「突然卍がためLIVE」が開催されていたが、ここにマサ斎藤が花束を持って出現。「俺はジャパン代表として戦う」と、3月26日の大阪城ホールにおける「INOKI闘魂LIVE2」での猪木への挑戦を表明した!

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

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