新型コロナ感染拡大で禁じられていた、アルプススタンドでの声を出しての応援が4年ぶりに認められた今夏の高校野球。一方で「雑音」がこんなに不快だった大会はない。
まずはじめにケチがついたのは、103年ぶりに決勝進出した慶應ナインの「髪型」だった。なにしろ検索サイトで慶應野球部と検索すると「慶應 むかつく」というキーワードが上位にくるのだ。
誹謗中傷はエスカレートし、慶應以外の「非坊主頭」の選手にも「むかつく」「高校生らしくない」との批判コメントが。アカの他人が、高校生が坊主頭でないというだけで何故「むかつく」のか、意味がわからない。
慶應の炎上はなお続く。慶應と沖縄尚学の試合で「慶應の応援が沖縄尚学のエース・東恩納蒼投手の調子を狂わせた」とネット上で中傷された。
沖縄尚学には不運が重なった。同試合には、甲子園に5回連続出場したPL学園のKKコンビの片割れである清原和博氏の「次男」が代打で登場。「清原二世」の姿に、テレビ観戦をしていても画像が揺れているのではないかと思うほど甲子園球場全体がどよめき、盛り上がる雰囲気が伝わってきた。
例年なら劣勢の沖縄尚学アルプススタンドには「関西在住の沖縄出身者」「勝手連」のにわか応援団ができたはずだった。新型コロナで制限される前の最後の夏、2019年にアルプススタンドで筆者が観戦した時まではそうだった。地元ファンは、交通費が高くおいそれと応援団を送り出せない北海道や東北、九州・沖縄の高校の内野席や外野席、アルプススタンドに移動しては声援を送って「応援のバランスを保つ」のが甲子園の伝統であり、良心だった。
ところが日本高校野球連盟は昨年、同大会の入場料を2倍近くに値上げした上で「ネット、コンビニで全席指定前売りにて販売」(残席ある場合のみ当日券を販売)する暴挙に出た。入場料は中央指定席4200円、内野指定席3700円、アルプス席1400円とプロ野球並みの料金になリ、ネット予約やコンビニ端末の操作が苦手な中高年は、入場券を買えなくなった。
現地には劣勢の沖縄尚学を応援したかった観客も大勢いただろうが、主催者の「改悪」で席を移動することも、在阪の沖縄出身者が当日券で入ることもできなかったのだ。
甲子園球場で気軽に観戦できなくなった反動なのか、高校球児や補欠選手の応援に対するネットの誹謗中傷は激化した。TikTokで応援動画を拡散している浦和学院、共栄学園、履正社、鳥栖工、神村学園などの「盛り上がりが足りない」という応援には「下品」「高校生らしくない」「応援団の自己満足」という批判や中傷が相次いだ。
だが、そんな卑劣な誹謗中傷も、あと10年で終わるのではないか。指導者だけでなく、アカの他人までが丸坊主を強制するようなメンドクサイ競技は消滅するからだ。
日本野球協議会普及振興委員会の2022年の調査では、中学校の部活動で硬式野球をする男子登録者数(中体連)は2010年には29万人いたのが、2022年は6割減の約13万7000人。リトルシニアの登録者数2万人を合わせても15万人弱だ。さらにその下の小学生で硬球を扱うリトルリーグ、ボーイズリーグに在籍する子供は2010年から6割減少して、全国に8000人しかいない。小学生なので軟式野球が主体ではあるが、高校野球やプロを目指して本格的な硬式野球をする児童数が、来年の調査では5000人を切るかもしれない。
酷暑の中、グラウンドや応援席で死闘を繰り広げる高校生にあまりに心ない罵声を浴びせる現状が続くようなら、高校球児は間違いなく絶滅へと向かう。
(那須優子)