中野氏がここまでの流れを解説する。
「橋下さんも感情的になりすぎです。言い分を聞いて、最後にやり返せばいいんですよ。その武器を用意していない。かけ合いの名人と呼ばれた親分の武器は『目』。ひとにらみで相手にブルかませる(震え上がらせる)んですよ」
終盤においても、議論は「やめろ」「やめない」の応酬になる。
橋下氏「だから、民族をひとくくりにして言うな。朝鮮人は出ていけとか、ゴミはゴミ箱、朝鮮人は半島に帰れとか、そういう、下らないことはやめろ」
桜井氏「それ、いったい何が悪いわけ?」
橋下氏「特別永住者の制度がおかしいんだったら、ここがおかしい。ここをこうしろ。これはおかしんじゃないかと、そういうことを言え」
桜井氏「朝鮮人は朝鮮半島に帰れっていうのは一つの意見だろうよ!」
橋下氏「やめろと。民族をひとくくりにするのは」
言論の自由に対して「やめろ」と言うことは民主主義の否定でもある。みずから呼び出した桜井氏に、橋下氏は公衆の面前で追い詰められていったかのように見える。
「話をまとめたい橋下のほうが同じ主張を繰り返すだけでは、クソの役にも立たない。ただの時間のムダだ。我々の秤にかければ、桜井のほうが上かもしれんね。市長を前になかなか堂に入った態度で、パフォーマンスもヤクザ的だ。ヤクザにも、こういう人間はたくさんいる。最近は見かけもアテにならんから(笑)」(現役関東ヤクザ)
もはや、説得が通じないと思った橋下氏は、なげやりな表情で吐き捨てた。
橋下氏「選挙出てからやれよ」
桜井氏「飛田新地帰れよ」
橋下氏「選挙出てからやれよ」
桜井氏の「飛田新地」発言は、弁護士時代に橋下氏が「飛田料理組合」の顧問弁護士を務めていたことを指しているのだろう。
結局、橋下氏は「帰れ」と言いながら席を立ち、2人のバトルはわずか10分で終了したのだった。
「席を立つということは、もう喧嘩しかないということだ。次は弾〈ハジ〉きに行くか、命〈タマ〉取りに行くかしかないだろう。自分の経験でもかけ合いに来た若衆が席を立ったことで、形勢を逆転させたこともあった。席を立つということはそれなりの覚悟が必要なんだ」(現役関東ヤクザ)
物別れに終わった2人に代わって、ヤクザ界の「在日問題」を例に、総括してもらった。
「我々の世界、在日の人は多いからね。それでも差別やいさかいなど聞いたことがない。人種でなく、不良としてどうなのか、器量でしか見ないからね」(現役関東ヤクザ)
このバトルについて、渡世の世界はカタギの世界よりよほど平和なようである。