セブン&アイ・ホールディングス傘下の百貨店「そごう・西武」の売却をめぐり、同社労働組合は8月31日、西武池袋本店(東京都豊島区)でストライキを実施した。大手百貨店のストは1962年5月の阪神百貨店以来61年ぶりになるが、ストライキ当日と直前の日曜日に西武池袋に買い物に行った筆者には「顧客ファーストでない西武」にガッカリするばかりだった。モヤる理由は3つある。
その1:西武と東武の存在が池袋の発展を妨げている。
ビックカメラのテレビCMにもあるように、池袋駅は東口に西武池袋駅と西武百貨店、西口に東武東上線池袋駅と東武百貨店があるが、西武線と東武線、JR線の乗り換え通路には「エレベーターと下りエスカレーターがない」という時代錯誤っぷり。階段昇降が困難な人や幼児連れ、ベビーカーは階段に阻まれ、東西の行き来が難しい。
ベビーカーや車椅子でどうしても東西を行き来したいなら、東口の先、サンシャイン通り交差点近くにある池袋ショッピングセンターと都バス乗り場に設置されたエレベーターから地下に降り、西武とJR、東武の混雑する地下通路を突っ切って、ルミネ池袋のエレベーターを使うか、西武百貨店と東武百貨店のエレベーターを経由するしかない。
ストライキがあった8月31日は西武百貨店のエレベーターやエスカレーターが使えず、前述の池袋ショッピングセンターに設置されているたった1機のエレベーターを求めて、ベビーカーが列を作ることになった。
駅の外に自由通路もあるが、自由通路出口に広がるのは中国人街と性サービス店街とラブホテル街。そこまでして池袋で買い物をする必要はない。地下鉄直通運転で東池袋か新宿に行くだけだ。
その2:もし災害が起こったら死を覚悟する「地下1階ダンジョン」
それでもストライキ当日、東口の大型書店「ジュンク堂」は相変わらず、レジに長蛇の列ができていた。ところがGoogle Map上では、ジュンク堂のナナメ向かいに見える西武百貨店内の「三省堂書店」は、ストライキの煽りをくって臨時休業。なぜなら三省堂書店には、路面から直接店内に入れる階段がないからだ。
1階は駐車場に阻まれ、三省堂書店に行くにはいったん西武百貨店1階に入り、デパ地下の混雑している食料品コーナーを突っ切って専用通路を経由しないと辿り着かない。ようやく辿り着いても、地下1階だけでも売り場が3つに分断されており、買いたい本がどこにあるのかわからない「ダンジョン状態」だ。
書籍館の一角にはおしゃれなカフェもあるが、トイレが少ない。地下女子トイレには常に5~6人が列を作っており、ゆっくりお茶も飲めない。多目的トイレしか使えない障害者や子供連れの利用者となると、さらに悲惨だ。
三省堂が入っている書籍館、無印良品が入る別館には、1階の道路に直接出られる出口がない。万が一、西武百貨店の地下1階で火災や停電を伴う大地震が起きたら、生きて帰れる自信がない。
ストライキ当日、新聞やテレビで評論家やコンサルタントが「セゾン文化人が池袋を育てた」「百貨店が文化を育てた」などと知ったふうなことを語っていたが、火事が起きたら死ぬ覚悟で三省堂書店に本を買いにやってきた我々のような客と、東京芸術劇場、池袋演芸場の観客、立教大学の学生が文化を守っていたと断言していい。
その3:階段だらけでエレベーターに使用制限あり
しかも池袋西武は「顧客ファースト」でもない。無印商品が入っている別館は駅直通ではないし、ペットサロンやロフトが入る9階は、エレベーターを降りると数段の険しい階段が立ちはだかる。
しかも曲線系の階段は手すりもウネウネしており、足腰の悪い人や子供には拷問でしかない。ペットカートやベビーカーを利用して電車で乗り継いできた客が、どうすればペットサロンに辿り着けるのか、謎が解けないまま閉店しそうだ。
9階のフロアの半分は屋上庭園だが、ここもトイレが少なく、トイレを我慢している幼児がいつも泣きべそをかいている。もう西武池袋にペットや子供を連れて行くのは諦めた。
おまけにストライキ前の日曜日、エレベーターはベビーカーと車椅子、高齢者を除き、上位階利用者のみに制限されていた。輸送力のキャパシティーは昭和のまま。従業員は「雇用存続」を叫ぶ前に、売り場面積を縮小してでも、子供連れや高齢者が使いやすい百貨店に変わる努力をしようとは思わなかったのだろうか。
ストライキ当日、親会社のセブン&アイ・ホールディングスは臨時取締役会を開き、米投資会社への売却実行を決議した。売却先の企業には池袋西武の思い出と引き換えに、池袋駅東口のバリアフリー化を進めてほしいと願うばかりだ。
(那須優子)