クールボーイが自宅裏の並びの4軒隣り、学習塾の裏階段で見つかり、思わず「いた!」と叫んでいた。連れ合いのゆっちゃんも興奮して「どこ、どこ?」と大きな声を出している。
「ほら、学習塾があるだろう、あそこの裏に階段があるの、わかる?」
「あるよ、外階段みたいになっていて、2階に人が上がっていくのを何度も見ているよ」
「あの階段にちょこんと座って、外を見ていた」
「あんなところに?」
「すぐ近所にいたということ」
「クーちゃんは気が付いた?」
「それが知らんぷり」
「まあ」
「クーと呼びかけても、誰って感じ」
「それでも、見つかっただけでいいわ。見つかったのがわかって、逃げないかな」
「階段と隣りの空き家の塀の間に逃げたから、あそこが隠れ家なんだと思う」
「じゃ、今のうちに捕まえるしかないね」
「もしかすると昨日も、捕獲器まで来てみたのかな。カリカリが少ないように感じたのは、クールが食べたから…」
「クーは警戒心が強いからね。踏み板を踏む前に、途中でやめたのかもね」
「でも捕獲器のところまで来るように、やってみるしかないと思う」
玄関脇、台所の前の駐車スペースには、すでに捕獲器が置いてある。ここにおびき寄せるのがベスト…いや、それしかない。
クールボーイを紹介してくれて、心配しているMさんにはLINEだけ送り、翌日、報告することに。2人で策を練った。
「まさか、無断で階段の前に捕獲器を置くことはできないだろうしね」
と、ゆっちゃん。
そうなれば、階段の前にカリカリの皿を置き、そこから撒き餌として、家に仕掛けている捕獲器まで1個ずつカリカリを置いて、おびき出す。でも、うまくいくだろうか。
「やってみるしかないかもね」
「お腹はすいているだろうからね」
さっそく、スティックに小分けにされているシーバのカリカリの袋をごそっと手にし、寒空へ飛び出す。
階段から我が家の駐車スペースまでは、80メートルくらいだろうか。まず階段の前に皿に入ったカリカリを。そこから5、6センチおきに、カリカリを並べる。「引っかかってくれ!」と祈りながら。
並べ終わって落ち着こうと、ビールを飲んでひと息つく。
「Mさんが言うように、遠くまでは行かないものね」
「でも、よかった。近くにいてくれて」
その夜はもしかしてクールが捕獲器までやってくるとか、家の中を見に来るとか、いろいろな状況を考え、ドアを開けたまま、毛布を被って玄関で寝ることにした。玄関のドアのところには、カツオの缶詰を用意して。
11月になって、冷え込みはかなり厳しい。物音がして夜中に何度も目が覚め、その都度、外をそっと眺めてみた。しかし、クールはやってこなかった。
4日目。朝になって捕獲器を家の中に入れ、前夜に撒いたカリカリをチェックする。ところどころなくなっているが、それを食べたのがクールとは限らない。学習塾の階段の前に行ってみると、カリカリが減っている。それはもしかすると、クールが食べたのかもしれない。
午前中に学習塾に行き、事情を説明して2、3日、お皿を置かせてもらうようお願いした。
(峯田淳/コラムニスト)