シロガネーゼからヒルズ族まで、有名人や富裕層が暮らすイメージが強い東京都港区では、来年度からの区立中学校の修学旅行先が海外になるという。第一弾として、シンガポールへの3泊5日旅行が決まった。
これには賛否両論あるが、区民でもない外野が文句を言うのは筋違いだろう。港区は地上波の民放テレビ5社をはじめ、多数の有名企業が本社を置いており、法人税収は潤沢。対象になる中学3年生は区内10校でわずか700人余りだ。港区に暮らす中学生の4割が私立中学に進学しているため、区立中学は1学年2、3クラスしかない。夏休みや正月には海外旅行に行く、高額納税世帯も多い。だからこそ「区内の教育格差、体験格差を解消」するための取り組みは、評価されるべきだろう。
それでは港区と他の22区の教育格差はどうなのか。実は港区以上に「教育格差解消に力を入れている区」がある。ビートたけしの出身地として知られる、足立区だ。
足立区は今年3月1日から子育て支援策として、独自の奨学生制度を始めた。学業成績が優秀でありながら、経済的な理由により大学進学を諦める子供を1人でもなくす狙いだ。一定の学力と条件を満たした学生が医学部に進学した場合、給付金は6年間で最大3600万円。それ以外の学部は4年間で830万円を上限とし、返済義務はない。
さらに以前からの取り組みだが、経済的理由、家庭の事情で進学塾に通えない公立中学校の成績優良児のために、区営の無料塾を運営。都立日比谷高校、都立戸山高校、都立青山高校への進学実績を持っている。
都内23区で潤沢な教育予算がつけられるのは、法人税収入に加えて「貧困を伴う高齢化」の影響が少ないからだ。都内である程度の財産を持つ高齢者は、持病があったり新型コロナにかかったりしても、年間契約しているプライベートドクターの往診で自宅療養、あるいはプライバシーを守るため有名病院の特別個室で自由診療を受けている。「治療費を区が負担する見返りに個人情報が漏れる」より、自腹で入院すれば保健所から電話がかかってくる煩わしさもなく、静かに療養できるからだ。
高級老人ホームに入る区民も多いため、都心部ほど公営の老人福祉施設の「待機老人」がいない。暮らしていた持ち家やマンションを賃貸に出せば、その賃料で老人ホームの諸費用を賄えるからだ。カネと人手のかかる高齢者がいない分、減少した子供に教育予算がかけられ、経済も人も回っていく。
東京に比べて土地の価格でハンディを負っている地方ほど、港区の海外修学旅行を批判しているヒマなどない。市町村の予算を見直し、子供の教育水準を上げ、経営者や医師になる人材を育てない限り、老人だらけの貧しい町にやってくる経営者や医師などいるわけがないのだから。
(那須優子/医療ジャーナリスト)