オートレースの多くはハンデ戦で行われる。飯塚オートでは11月22日から26日まで5日間開催の、GI開設67周年記念レースだった。日中のグレード開催だ。コースは1周500メートルで、5日目の優勝戦以外は6周3100メートル。通常は8車立てだ。出かけた3日目、11月24日は前から順に0ハンデの0線(ゼロ線とかゼロハンと呼ばれる)、10メートルのハンデ、20メートルのハンデにスタートラインが設定された。
例えば10Rは0線が①1車、10メートルは②③2車、20メートルは④⑤⑥⑦⑧5車。アウトに向かって④⑤⑥⑦⑧と並ぶ。レース前には試走が行われ、500メートルの全速力タイムを5で割り、「試走タイム」として場内などに表示される。予想の参考にするのは「試走タイム」と、過去の競走の成績など。外に行くほどに「試走タイム」が速くなる傾向が強いが、競走車の整備、選手の好不調などで様々だ。
車券を買い始めたのは6Rから。初日と2日目をチェックしたら、当然かもしれないが、ゼロハンをもらった選手は先行して3着までに残るレースが多い。例えば3連単⑧②①とか⑧⑥③といった具合だ。車券には内の①②③を絡めるのが鉄則に。
6Rは③⑦④で、3連単4万3250円。隣りにいたファンは「軽ハン(軽いハンデ)が強か~」とつぶやいていた。7Rは⑧⑦①で同2300円。8Rは軽ハン勢が潰れて⑦⑤⑧、同4270円。9Rは10ハンデの2車が最後まで逃げて③②⑧、同8230円。①②③を絡ませて車券を買っているのだがチグハグで、ドボンが続いた。
ただ、10R以降はちょっと自信があった。10R、11Rは今年のSGを2つずつ優勝している鈴木圭一郎と青山周平が出場する。ランクはS級1位と2位で、断トツの実力を誇る。12Rは地元飯塚の実力者、有吉辰也で堅そうだ。
で、10R。①新村嘉之と⑧鈴木は「試走タイム」が3.36と3.27で、0.1秒近く違っている。車券は迷わず⑧から。2着、3着はできるだけ高めの配当を願いつつ、①②③⑦のボックスを。結果は⑧①⑦だが、2番人気の3連単470円。オー・マイ・ゴッド!
続いて11Rだが、①片岡賢児と⑧青山の「試走タイム」は0.1秒差。迷わず⑧から買うも、①を蹴っ飛ばしてドボン。⑧①⑥の3連単1万9500円という配当に、血が上りそうになった。
そして12R。⑧有吉から買って、軽ハン勢は①②をチョイス。結果は⑧③②で3連単4万5900円。再びオー・マイ・ゴッド!
はるばる単線電車で飯塚までやってきて、トリガミの1安打である。トホホホホホッ…。
事務所に挨拶をし、帰ろうとしたら、無料バスが目の前を走り過ぎた。えっ!? なんてこった。 というわけで、駅まで25分ほど、炭鉱の街の一本道をトボトボと歩いたのだった。駅周辺には降りた時に、小さな居酒屋にアタリをつけていた。だが行ってみると、営業は18時からという。もう駅に戻ろうかと思いながらも、そこから横に入ると、やや先に料亭のような構えの店があった。ここに入ってみるか。
そこはようやくたどり着いたオアシス。「むつごろう」という地元の有名店だった。内陸なのに皮はぎの造りやら、いかetcの魚介類が揃っていた。迷わず、皮はぎ1匹の肝付き薄造りに、赤身を注文する。
お造りは時間がかかるというので、予定していた電車を一本ずらし、飯塚の「一鳥万宝」という珍しい地酒、そして見かけると必ずお湯割りを頼む鹿児島のいも焼酎「伊佐美」で皮はぎを堪能することができた。
前日は小倉の行きつけ「味楽」で香箱ガニとふぐの造りで一杯飲(や)り、この日は極上の皮はぎに舌鼓を打つ。なんともいい旅打ち…のはずだった。
帰りは駅のコンビニで300ミリリットル瓶の日本酒を買って、50分のほろ酔いの単線電車旅となった。ところが…。博多到着まで2、3駅のところで熟睡してしまったらしい。目が覚めたら電車が逆方向に走っている。車内のアナウンスは「次は新飯塚、新飯塚です」。慌てて降りると、振り出しに戻っていた。
その時間から博多行きに乗っても、飛行機にはもちろん間に合わない。仕方がないので、博多でもう一泊しよう。すっかり酔いも覚めてしまい、駅のホームから炭鉱の街の夜空を眺めていた。いろいろあった旅打ちの一日に、思いを馳せながら…。
(峯田淳/コラムニスト)